「俺、どうしようもない人間でしょ?友達に怖がられて、母さんを殺して、父さんに捨てられて、結局喧嘩で全部をおさめて…」

ほんと、どうしようもないでしょ、そう続けられた声は震えていて、睫毛は涙で濡れていた。せっかく乾いた涙なのに、志乃はまたぐずぐずと鼻をならしはじめた。
僕はやっと、そこで彼を抱き締めることが出来た。話が終わったから、全てを聞き終えたうえで、抱き締めてあげたかった。

「り、ん…?」

「ほんと、どうしようもない。どうしようもないけど、僕は嫌いになったりしない…たくさん傷ついて、苦しんだことをわかってあげることは出来ないけど…でも、少なくとも今の遥を大事にしたいよ」

「りん…」

ああ、アマさんが残した意味深な言葉の意味は、これだったのか。“過去を知ったら”って…今話してくれたことを知らないまま、のうのうと隣にいた僕への、忠告。でも、知った今でも、僕は僕の意思で、志乃の傍に居たいと思う。

「話してくれてありがとう」

広い背中に回した手で何度もそこを撫でると、志乃も僕に抱きついてきて。肩口に鼻を押し付けてぐりぐりした。絶対鼻水ついてるじゃんと思いながらも、気がすむまでそうさせてあげることにした。

「ごめん、まおちゃん…そろそろ起こしてあげないとね…」

「そうだね、夜寝れなくなっちゃう。下、行こっか」

「あ、待って!」

「ん?」

離した手をとられ、そのまま志乃の胸にダイブしてしまった。硬い胸板に鼻をぶつけ、一体どうしたんだと見上げれば…

「りん」

不意をつかれて動けなかった。
ゆっくり近づいてきた志乃の顔と、額を撫でたはちみつ色の髪。何をされているか気づいた瞬間、逃げることを許さないと言うように志乃の腕に強く抱き締められた。

「あ、」

重なった唇と唇。隙間からもれた自分の声は、けれどまた志乃の唇にのみこまれ。
急速に体が熱を帯びていくのと、動揺しきった頭の所為で、その状況をうまく処理することはできなかった。

「ん、ぁ…」

ただ、一つはっきり分かったのは…
僕のファーストキスは、志乃の涙の味だったということ。

─ to be continue ..




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