「俺ね、中学の時もこんなんで…体が大きいのもそうなんだけど、やたら周りから目をつけられて…リンチされてるうちに喧嘩覚えちゃって。反撃してるうちにどんどん身に付いちゃって…でも手を出されてからしか、俺は何もしないって決めてた。痛いのは嫌だから、なるべく目をつけられないように静かに過ごそうともした」

中学の時の志乃…このままの中学生だったら、さぞかし目をつけられたに違いない。良い意味でも、悪い意味でも。

「でも、気づいたら俺に敵意向けてた人たちが俺を仲間にしたがって…もちろん、そんなのは嫌だから拒否してた。そんなある日ね、俺の友達が人質にとられちゃって…脅しの電話があって、指定された場所に行ったら…もうその友達はぼろぼろで…」

きゅっ、と眉間にシワを寄せた顔も、イケメンのまま。だけど苦痛でしかないそれを思いだし、口にしているということを考えると、抱き締めたい衝動にかられる。

「俺ね、その時キレちゃって…あんまり、よく覚えてないんだけど…キレて、暴れて、パトカーの音が聞こえて、はっとしたんだ。はっとして、まわり見たら…立ってるのは俺だけで、地面には友達をぼこぼこにした奴等が血まみれで倒れてて…慌てて友達を担いで逃げようと思った。でも…」

“拒絶、された”

「そう、拒絶。差し出した俺の手を、傷だらけの手が叩き落として、友達は後退ったんだ。その瞬間、ああ、俺もう駄目かもしれないって…このまま逮捕されちゃいたいと思った。その時、“アマ”が現れたんだ」

アマさん…?

「小学校も中学校も違う、その時はまだ噂で聞いたことがあるだけの人、だった。でも、その場に現れたアマは、“俺がなんとかしてやるから、お前は逃げろ”って言ったんだ…その代わり、条件があるって付け加えて。その条件が、“志乃遥は今日から、俺のチームのメンバーになること”で…それが嫌なら自分のチームを作って、どこにも収まってないやつらをまとめろって…俺、その時もう何もかも、どうでもよくて…」

「……」

「とにかく逃げたかった。自分でコントロールできない怒りが芽生えたことも、友達に拒絶されたことも、とにかく言い訳をしたかった。それに、また同じような状況に陥った時、今度はちゃんと守らないとダメだって。その為に、俺は自分でチームを作った」

「それが…“白狼”?」

いつだったか、屋上で聞いた名前。記憶の隅にあったそれを問えば、志乃は「違うよ」と首を横に振った。

「名前も何もなかった。とにかく俺に負けた人たちを集めて、なんとか人数を集って…そういうことしてるとさ、やっぱり勢力争い的な喧嘩に巻き込まれるんだよね。それで、俺勝っちゃって…また勝って、“白狼”ってチームのトップの人にも勝っちゃって、その座を譲られたんだ」

そんなに喧嘩が強いことは驚きだけど、それよりこのやる気のなさと言うか…他に血の気が多くてトップになりたくて仕方ない人がたくさんいる中で、勝ち続けた志乃がすごい。そう、素直にすごいと思ったのだ。

「それが中二で…三年の頃には完璧なピラミッドが出来てた。そんな時にね、母さんが病気になって…病気?かな、良く分からないんだけど…俺が喧嘩ばっかりして、家に帰らないことも増えて、警察がうちに来たりして、近所の人みんなから避けられて…おかしくなっちゃったんだ」

「…でも、それは…」

「俺の所為だよ。母さんはおかしくなったまま、家に引き込もって…そんなある日ね、突然俺に包丁を向けたんだ。俺も驚いて、思わず逃げたんだけど…そのあと父さんから連絡がきて…“母さんが自殺した”って言うんだ。俺、信じられなくて…でも、それから慌てて家に戻ると、家の中は血まみれで…」

「し…」

「俺があのとき逃げないで、母さんの側に居たら…母さんは自殺なんてしなかったかもしれない。そもそも俺がこんな風になってなければ…」

悔しいよね、辛いよね、痛いよね、なんて…平凡に生きてきた僕の口から言っちゃいけない気がした。その痛みを全部知ることなんて出来ないから。





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