「はる、かっ」

「りん?」

「痛く、ない?」

「っ…見て、たんだ……」

「雨、降ってきたから、追いかけたんだ」

「ははっ…りんには、見られたくなかったなあ」

どうしてそんなに、悲しげな目をするの。傷ついて、痛くて、苦しい。そんな目。

「聞かないよ」

「……」

「聞かないけど…でも、そんな顔はしてほしくない」

「、本当は、知ってほしいよ。でも、知ったら…りんはきっと、俺を嫌いになるから…」

「嫌いになるかどうかは聞かなきゃわからない。でも、僕は志乃の…は、遥の…良いところも、ちゃんと知ってるよ」

「り、ん…」

家に戻ればいいのに、それも思い付かないほど僕らはいっぱいいっぱいで。強くなる雨脚をよそに相合い傘で、じっと立ちすくんでいた。それでも志乃が、ゆっくり言葉を紡ぎ始めたから、僕は一言も聞き逃さないように耳を傾けて。

「あれ、父さんなんだ」

「お父さん…?」

「勘当、されてるけどね。今は、じいちゃんとばあちゃんの家にお世話になってて…今日は、父さんが話があるからって会いに来る予定だったんだ。でも間に合わなかったみたいで…怒られちゃった」

「…それ、僕の所為じゃ…」

僕が心配をかけてしまったから…

「違うよ、俺がしたくてしたことだもん。父さんとの話より、りんの方が大事だと思ったか─」

「だ、ダメだよ。だって、勘当、されてる…って、それでも話があるって、会いに来てくれたんでしょう?僕より、お父さんを優先するべきだ」

「何を話したって、俺は父さんに許してなんてもらえない」

「許してって…どういう…」

震える声が、雨に消されそうになる。
それでもなんとか聞き取れた次の言葉は、僕の許容範囲をはるかに越えるものだった。

「俺は、母さんを、殺したんだ」

その瞬間、雨の音が急に耳に流れ込んできた。同時に志乃の目からこぼれた涙に、僕は加速する鼓動を抑えきれなかった。

「ころし、た…?」

「そう。だから、何をどうしたって、俺が許されることはないんだ。今日だって…父さんの話はいつも同じ。“まだそんなふざけた格好をして、くだらない生き方をしてるのか。祖父母にまで恥をかかせるようなことをしたら、即刻出ていってもらう”それだけ。今いるじいちゃんちは、父さんの実家だから…」

「ま、待って…」

「そんな話をしにくるだけの父さんなんだよ。さっきも、約束の時間を過ぎたから、帰ることにして…途中で僕を見つけたから話しかけてきた。事情を説明してもね、“約束も守れないでふらふらしてるなら、出ていけ”って。お前は存在してるだけ無駄だって言われたこともある」

一体、志乃は何を言っているんだろう。
全然理解できない。“殺した”とは、どういうことなのか…それに、どうしても志乃の“父親”が分からない。百歩譲って、志乃が父親に勘当されて祖父母の家にお世話になっているとして。かつ、父親とはこれ以上ないほど険悪な仲だとして…だけどそこまで言う意味がわからない。いくら縁を切るって言ったって、自分の子供にそこまで言う必要があるのか…

「でも、全部俺が悪いから…俺が父さんを責めることはできないし、仕方がないんだ」

「、」

「だから、りんまでそんな顔しないで…」







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