次の日、志乃は僕らが起き出した頃にやってきた。

「りん!動いて平気なの!?大丈夫?」

そんな、大声を出しながら。

「大丈夫だよ、昨日は迷惑かけてごめん。でも、ありがとう。まおのことも、見てくれて…志乃、いつもより帰るの遅くなったでしょ?」

「そんなの気にしないで。俺がしたくてしたことだし、りんが元気になったならそれで充分だから」

「…ほんと、ありがとう」

「〜!りん!!」

「う、」

「良かったあ〜りん〜」

玄関でぎゅうぎゅうとされる中、志乃の登場に気づいたまおが背後から僕に抱きついてきて、いつも通りのサンド状態になってしまった。苦しいけど、でも、温かくて、自然と笑みがこぼれる。

「と、とりあえず、上がりなよ…こ、んなとこで…」

「ん、じゃあお邪魔します」

「はい、どうぞ。まお、リビング行こう」

「ん!はるちゃん、上がって上がって」

「はーい、ありがとう」

ああ、まおの笑顔が志乃に向けられてる。ずるいなあ。
そんな感情も、向ける相手がいるからこそで。それはもしかしたら、とても幸せなことなのかもしれない。

「志乃、傘持ってきてない?」

「んー?今日は降らないってニュースで言ってたから、持ってこなかったよ」

「そっか。もし帰るとき降ってたら貸すよ」

「ありがとう」

まだあけきらない梅雨。どんよりと曇った空に、降らなければいいなと思いながらリビングへ移動した。

「はるちゃん、昨日の続き読んでー」

「いいよ〜」

「はい、」

仲良く戯れる二人を横目に、昨日サボってしまった掃除や洗濯を済ませることにした。
その日は一日中どんよりとした天気で、ずっと家の中にいた。公園に行くことも、特に必要なものもなかったから買い物に行くこともなくて。

「まおー。寝るの?」

「…寝ないよ〜」

「もう半分寝てたでしょ」

「寝てないよー」

「寝てもいいけど、夜寝れなくなるほどお昼寝しちゃダメだよ」

「分かってるもん」

精一杯目を開けながらも、それは段々と落ちていき。すぐに寝息が聞こえてきた。30分くらいで起こさないとなあ、なんて呑気に考えているうちに、ソファーに座ったまま僕も睡魔に襲われた。膝にはまおの頭があって、そこを撫でる手もいつの間にか止まっていた。

「りんも寝るのー?」

「…寝ないよ」

「寝ていいよ?俺今日はそろそろ帰るし…」

「何かあるの?」なんて、聞けるわけない。でも、聞きたいと思った自分がいたのは確かで。

「そ、っか…」

「ん、また…学校で」

“明日”は日曜日。“学校で”ということは、明日はうちには来ないのだろう。それにも何かが引っ掛かって…

「あ、そのままでいいよ。まおちゃん起こしちゃ可哀想だし」

玄関まで見送るつもりでまおの頭を少し動かしたけれど。止められてしまった。志乃はもう一度「じゃあまた学校で。お邪魔しました」と言って、僕の視界から消えた。いつもの、“別れの挨拶”もしないまま…消えて、すぐ、雨が振りだす音が聞こえてきた。



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