その上、そんな僕を労るように支えてペースを合わせて歩いてくれる志乃が、いつも以上にかっこよく見えて困る。かけてくれる声だっていつも以上に優しくて、こんなの…
ダメだ、余計なことは考えない方がいい。弱っているんだ、よからぬ方向に行きかねない。

「りん、鍵。出すよ?」

「……んん」

学校から家まで、いつもの倍くらいの時間をかけて到着すると、志乃は慣れた手つきで僕の鞄から鍵を取り出した。そりゃあいつも一緒にここへ来るのだ、見ているから何処にあるかもわかっているんだろう。

「はい、どうぞ」

「ありがと…」

まるで志乃の家にあがるような感覚で無事帰還し、靴を脱いだ瞬間志乃に抱き上げられて階段を上がった。所謂お姫様だっこ、で。それで部屋までつれていってもらうのに抵抗がなかった訳じゃない。でもここまで来たら誰にも見られることはないし、何より体力も限界だった。
大人しくだっこされたまま身を委ね、ベッドでおろしてもらった。

「寝る?」

「…ん、でも…まお」

「俺が迎えにいくから、りんは寝てなよ」

「僕も行く、から…」

「だめ。寝てて、大丈夫だから。ね?」

「でも…」

「お願い、無理しないで」

ベッドに座った僕を一度抱き締めてから、志乃はゆっくりと僕のネクタイに手をかけた。

「っ、」

「服、着替えてから寝るでしょ?」

「じ、ぶんで…」

「じっとしてて」

さらりと、金髪が額から鼻にかけて撫でていき、ネクタイが落とされ。そのままシャツにもその手がかかった。

「しの、本当に…も─」

「遥」

「、……」

「ごめん、こんなときに、意地悪だよね」

へへ、っと眉を下げて笑った志乃。何故だか分からないけれど、それに胸がチクリと痛んだ。

「服、これでい?」

「…うん」

「わかった。はい、脱がせるよ」

「し…」

全部外されたボタン、それが肩から落ちる寸前で、僕はなんとか声を振り絞った。

「はる、か」

「ふぇっ」

「も、自分で…着れる、から 」

ダメだ、顔が熱い。
どうしようもなく恥ずかしくて、すぐそこにある彼の顔が見れない。それ以上言葉を紡ぐのは無理だったから、自分でシャツを脱いで志乃が出してくれた服を着た。つもりだったけれど着る途中で志乃の手に捕まり、それは床に落ちてしまった。

「へ、あ…」

そのまま上半身裸を晒した格好で押し倒され、状況を理解するのに時間がかかった。寒さは感じない。むしろじめじめして嫌な暑さと、この妙な雰囲気に体の内側が熱い。

「りん、りん…」

「あ、ま…」

僕の頬に何度も何度もキスを落とした志乃は、それから困った顔をして僕を見下ろした。びっくりしすぎて「どうした」と問うこともできないでいたら、志乃の方が声を漏らした。



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