「222位!?え、遥すげーじゃん、マジで頑張ったんだな!」
「でしょ!りんのおかげ」
「……」
昼休み、いつも通りやってきた樹くんは志乃とハイタッチなんかしている。
いや、222位って…僕らの学年は全231人。その中で222番と言うのは、むしろ悔やむべき順位じゃないだろうか。そう、確実に褒められるものではない。先生にあんなに褒められたのは志乃の順位が上がったから、でもこれであそこまで褒められるとなると、去年を想像するのが本気で怖くなる。
「で、なんで音羽はそんな顔してるわけ」
「…いや、そんなつもりは…」
「遥の成長ぶりが分かってないんだな。教えてやるから覚悟して聞け」
「いや、聞きたくは…」
「去年一年間、遥の順位は生徒数と同じ数字が書いてあったんだぞ。239/239、236/236、235/235みたいな感じで」
辞めた生徒が何人かいるけれど、40人クラスが6組だというていでだいたい240人中何位、という考え方。そんな僕としては、毎回7〜10位の間をいったり来たりしているのがいつものことで。
もちろん、学校のレベルを考えても、そのくらいの順位はとっておきたいし、取らなきゃ少し悔しいくらいで。
「分かるか?違う数字が並んでるだけでもすげーことなんだって!しかも、赤点も5個しかないじゃん」
5個“しか”?
「全部赤点とってたんだぞ?それが5個って…遥、お前本当によく頑張ったよ。音羽に感謝しろよ」
「うん、りん、ほんとにほんとにありがとう」
「…僕はなにも…」
そうか、これは大躍進なのだ、もっと褒めるべきなのだ。
それに、数学U、数学A、日本史、世界史、生物が赤点。だけど0点はひとつもない。現代文と古典は漢字と抜き出しで、英語は単語で、なんとかギリギリ30点台をとり、保健体育は特に難しいものでもなかったしまあまあの点数で。順位がつくのはそこまで。あとは選択の科目で、それは各科目で合格ラインがあるからなんとも言えない。
確かに0点がなく、樹くんの熱弁を聞いた限りかなり伸びた。赤点のものに関しては再試や課題が与えられるけれど、それも期日までに乗りきれば問題はない。
「英語で30点とったのなんて初めてなんだよ?」
単語がパーフェクトなら、その時点で30点はとれる。だから志乃には出されるであろう単語を徹底的に覚えさせ、しかもテストでは意味が選択肢になって並んでいた。だからそこで稼げたのだろう。
「テスト返ってくるの楽しみだなあ」
「写メとってみんなに送ってやれよ」
「そうする!」
だ、だめだ、根本的に考え方が違いすぎる。
「樹はどうだったの」
「俺?199位」
「え、ずるーいなんでー」
志乃、なにもずるくないよ。
「今回俺も頑張ったからなあ。脱、200番台。あ、音羽は?頭良さそうだし、100とか?」
「……はち」
「108?」
「………いや、8位」
「は!?え、まじで?がり勉じゃん、え、すげっ」
樹くんはそう叫ぶと大袈裟にガタガタと音をたてて立ち上がり、口に手をあてた。
「音羽って、見た目通りなんだな。最近眼鏡かけてねえから忘れかけてたけど、やっぱ眼鏡かけてる奴って頭良いんだな」
「いや、それは違うかと…」
「あ、そういえば知り合いの頭良い奴も眼鏡かけてるわ」
たぶん眼鏡は関係ないと思うけど、乱暴に頭を撫で回されて、言い返すのも面倒になって黙ることにした。どうしてみんなしてこんなに撫でくりまわすのか…
「樹!りんに触んないで!」
「うお、悪い。思わず」
「思わずじゃない!ほら、もう教室戻ってよ!」
「なんだよ、悪かったって謝ってるだろ」
「やだ。樹なんて嫌い」
「はあ?」
「樹がいかないなら俺たちが出てく」
さっきまで仲良くハイタッチしてたのに…志乃は頬を膨らませて僕の腕を引き、強引に引っ張って教室を出た。
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