「りん、一緒に入ろ」

「ダメ。志乃が濡れるから」

「濡れないし、濡れてもいい」

「風邪ひいたらどうするの」

「むー」

さっきの志乃はどこにいった。本当に同一人物なのかと問いたくなるほど別人じゃないか。
そんなことを思いながらスーパーに行き、さっき確認したものだけを購入してまおを迎えに行った。家を出たときより少しだけ強まった雨に、僕らは玄関まで入ってまおを待つことにした。

「りんちゃーん、はるちゃああーん」

勢いよく飛び付いてきた妹を受け止め、ひろみ先生に挨拶をして保育園を出る。傘をさしていると手が繋げないし、今日は買い物袋もあるから余計にまおとの距離が遠い。
でも今日は雨が降るだろうからと、長靴を履かせていったのは正解だった。それでも濡れてしまうのは仕方ないとして…なんだか頭が痛い。勉強に集中しているうちはまだましだったのに。気が抜けた所為だろうか。

「りんちゃん、今日ね〜」

うんうんと話を聞きながらも、その痛みは酷くなる一方で。

「りん、どうかしたの?」

「ん?」

「顔色よくないよ」

「あー…大丈夫、ほら、早く帰ろう」

結局その日、頭痛が治まることはなく。自分でも冴えない顔をしているんだろうなと、気づいてはいたけれどそのまま志乃を見送ることになってしまった。

「りん、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「……」

捨てられた子犬みたいな目で見られ、けれどいつも通り志乃は僕の頬にキスを落とした。

「無理しないでね。何かあったらすぐ連絡して」

「ん、ありがとう」

「じゃあ、ゆっくり休んで」

「志乃も。気を付けて」

ばいばいと手をふりながら、何度も振り返る彼を見送るのは悪くない。可愛いかもしれないなんて思うのも、癒されると感じるのも、もしかしたら変なのかもしれないけれど。
それでもその光景には自然と口元が緩んでしまう。



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