拗ねた子供から、捨てられた子犬のような目になった志乃は、気まずそうに視線を落とした。

「志乃、今日から一緒に頑張ろう?ほら、赤点とらなければ…」

いや、そこまでも無理か…いや、でもその気持ちがなければ無理だし…

「遥、やっとけよ。俺も学年末にあんなんになるの、もう勘弁だからな。それに…」

ゆらり、志乃の金髪と樹くんの赤髪が交わった。樹くんが何やら志乃に耳打ちした様だったけど、僕には聞こえなくて。

「な、じゃあ俺戻るわ。音羽、志乃のこと頼んだ」

樹くんはそのまま颯爽と教室を出て行ってしまった。微妙に嫌な空気に包まれていた教室は幾分か和み、ああ、やっぱり樹くんも“不良”なんだなと感じた。もちろん、見た目的に不良だけれど。口調もたまに荒くなったりするけれど。話すようになってから怖いと感じることはなくなっていた。
しかし、今はそんな話ではなく。

「志乃、」

「分かった。俺頑張る…」

「良かった、やる気になった?」

「ん」と頷いた志乃を見届けて、その日の放課後から猛勉強を始めた。
僕だって自分の勉強をしたいし、人に教えられるほど頭がいいわけじゃないけれど…二人で勉強するのは悪くなかった。決められた時間の中でメリハリをつけて勉強するのは効率的だし、僕らの傍らでまおも大人しく本を読んだり字を書いたりして過ごせていたから。

「……」

「何処がわからないの」

「ここ」

でも、とにかく僕は驚いていた。
顔やスタイルが抜群に良くて、運動も出来て、“不良”だからと怖がられても、それでも人の集まってくる志乃。そんな人が絶望的に勉強ができないなんて。もちろん、勉強が出来なくても大した問題ではないけれど、一応高校に入れたにしては度が過ぎていたのだ。
そして、そんな努力をしてまで、周りを巻き込んでまで、志乃がうちの高校に来たかった理由は、何なのだろうとも思った。もうワンランク下の高校も、この辺にはあるし…不良の巣で、道端ですれ違うのが怖い人ばかりの学校だけど…うちじゃなければいけなかった理由でも、あったのだろうかと。

「分かった?」

「……」

「じゃあ、もう1回言うよ?」

それは、聞かなければわからないことなんだろう。でも、僕が聞いていいことなのかもわからない。もしかしたら、無神経に聞いちゃいけないことかもしれない。そんな葛藤をしつつ、でも今は勉強に集中しようと決めた。


「おー、遥、頑張ってんだな」

「……」

「はい、正解」

「お前ら二人して無視か」

「樹うるさい。あっち行って」

悪あがき、にもなっていないかもしれないけれど。
とにかく確実に赤点をとらないように、とっても、その数が少ないように、真面目に勉強している様子をちゃかした樹くんを、志乃は目も向けないで突き放し不機嫌そうにペンを止めた。


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