「連休中に見事達成しちまったわけ。それで、“統一したのは俺だ。誰も逆らわないよな。俺はもうここを抜ける。文句がある奴は出てこい。殺してやるから”って言い残して、チームから出ていったのが、昨日の夜。それから連絡とれなくて困ってんだけど」

「……仮に、僕が志乃の居所を知ってたとして…その騒ぎとは関係ない、ですよね…?」

「はあ!?てめぇなめてんのか?」

「へ、え…?」

「分かるだろ、てめぇの為だろ」

僕の、ため…?

「…どうして?」

「おま…遥の所為で危ない目に遭ったんだろ?遥はそれにキレて、嫌いな喧嘩してまでお前のこと守ろうとしたんだろ、なんでわかんねえんだよ」

「ま、まって…確かに、拉致されたけど」

「拉致!?」

「あ、でも酷いことはされてない…いや、それに何より、志乃が僕の、僕一人の為にそこまでするはずない…です、」

おそらく同い年なのだろうけれど、志乃と同じように口をきくのは無理だった。怖いし、なんだかトゲトゲしていて生意気なことなんて言えない空気だから。

「お前、馬鹿なの?遥見てればわかるだろ」

「?」

「ほんとに分かってないのか?」

だから何を、と口にしようとしたらブレザーのポケットの中で携帯が震えて。僕の携帯が鳴るなんて、しかもこんな時間になるなんて…思い付いたのは保育園くらいだったけど、違った。
赤髪くんに「出ろよ」と顎で促され、登録されていない番号からの電話に出た。きっと、志乃だろうとは思ったけれど…

「もしもし」

「……りん?」

聞こえてきた声は、やっぱり志乃だった。ただ、聞きなれたそれは掠れていて、しゃべるのも辛そうなものだった。

「うん、起きた?」

「ん…ごめん、俺昨日……」

「僕は大丈夫だから、それより体は?」

「ありがとう。まだ、動けそうにないけど…おにぎり、今食べたとこ。美味しかった」

「そっか、よかった。もっと栄養のあるもの作れたらよかったんだけど…」

バタバタして出来なかったと続く言葉を飲み込み、「何か、他に食べたいものある?」と返した。

「……んーん、大丈夫」

「分かった。もう少し寝る?」

「……ん」

眠そうな声に、きっととろんとした目をしているんだろうなと想像が出来て、無意識に口元が緩んだ。

「じゃあ、おやすみ」

「りん」

「ん?」

「……りん、」

“会いたい”

「、」

掠れた声は、ゾッとするほど色っぽくて、息が詰まった。

「し─」

「っごめん、寝て…待ってる」

「あ、」

切られた。
通話の終わりを告げるツーツーッという機械音が冷たく響き、ついでに刺すような視線を向けている赤髪くんに気づき、一気に心細くなってしまった。

「遥?」

「いや、…」

「生きてるならいい。てか、あんたさ、遥のキレてるとこ、見たんだよな」

「え?ああ、まあ…」

そうだ、見てしまったんだ。いや、“見てしまった”というのはどうなんだろうか。驚きはしたけど、別に、だから怖いとは思っていないし…“アマ”が言っていた、近くにおいておきたいなんて思わなくなるって言うのも、よくわからないまま。だって、僕の意思と言うよりは、志乃が僕の近くにいるだけだから。離れるとか、そういうのを決めるのは僕じゃなくて、志乃の方だ。

「それ見てさ、なんも変わってねぇの?」

「…特には」

「……それ、遥に言ってやれよ」

「聞かれれば、そりゃあ答える、けど…」

「聞かれなくても言え」

どうして君にそんな命令をされなきゃらないんだ。でも確かに、志乃は前…僕はなにも批判的なことを言ってないのに“嫌いにならないで”と呟いた。志乃自身、そういうのを気にしているから安心させてやれ、という意味なのだろうか。

「とりあえず今から行ってやれば」

「え、でもまだ授業あるし」

「はあ!?、んなもんサボれよ。お前普段真面目なんだから教師に一言“体調悪い”って言えば帰してもらえるだろ。鞄もそこにあるし。てかたぶんこのまま帰っても大丈夫だろ。俺に連れていかれるところ見てた奴いるし、教室戻らなきゃ察するだろ」

「…君になにもされてないのに、君を悪者にする気はないよ」

「あー…」

それは本心だった。帰る理由をつけるなら前者をとる。

「分かった、もう行けよ。遥のとこだぞ」

分かってる。それに志乃の様子も変だったし、顔を見たい気持ちは正直結構ある。早退して帰るなら、早い方がいい。いつもの時間にまおを迎えに行く、という習慣は変えないためにも。一度家に帰っても、保育園のお迎えの時間には余裕で間に合う。



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