「志乃くん休みかなー?」

「まだ今日も休みだって勘違いしてるとか」

「あり得るかも〜」

でもやっぱり、志乃のいない教室は居心地が悪い。ただ、それより僕はまだ寝ているであろう志乃のことが心配で、授業なんて全然頭に入ってこなかった。唯一、昨夜終わらせた宿題を提出して、先生に「おー偉いなあ」と褒められたことは分かった。

そんなあとの、昼休み。
携帯をチェックしたけれど、メールも電話もなかった。間違えたものを書いたなんてことはないだろうから、やっぱりまだ起きていないのかもしれない。そう思いながらコンビニ袋からパンを取りだし、一口かじった。

『バァン!』

まさにその瞬間。
勢いよく開けられた教室のドア。そこにはなんだか見慣れてしまった赤髪の樹くんがいて、ものすごい目付きで僕は睨まれていた。

「音羽凜太郎。ちょっと来い」

「、え?」

「来い」

ドカドカと、僕にたどり着くまでにいくつかの机や椅子を蹴散らせた彼は、そう言って僕の腕を掴むと、無理矢理引っ張って歩き出した。

「え、あの」

「いいから、話がある」

「……」

話って…
志乃のことだろうか、いやそれ以外考えられないか。

「音羽凜太郎」

「っはい」

「遥、どこやった」

僕は赤髪くんに中庭で解放されたけれど、離れたと思った彼の手は、今度は僕の肩を掴んでいた。突然の痛みに、何故か持ってきてしまった鞄が手から滑り落ちた。

「いっ…どこって」

「お前のとこにいるんじゃないのか」

「……どうして、そう思うの」

「どうしてって…お前は志乃の、」

志乃の、なに?友達?

「悪い、でかい声出して。肩も、痛いよな。俺もちょっと、動転してて」

「あ…うん、大丈夫です、けど…」

「……音羽、お前遥のこと知ってるよな」

「え?」

「遥が、どんなやつかってこと」

「し…」

正直、知らない。
だから答えられないでいたら、赤髪は盛大にため息をついて、けれど話を続けてくれた。

「遥はさ、チームの…まあ、実質的には頭なんだけど、いろいろ事情はぶっとばして、結局のところ一番力持ってるわけ。今までもちょいちょい抜ける騒動はあったけど、今回は本気っぽくて、困ってる」

「は、はあ…」

「突然やめる宣言して、さすがにそれは認められねえだろって話になって、話し合いとかしたんだけど。遥全然話聞かないから苦戦してて。それが先週突然連絡寄越してきて、“今からここら辺一掃するから手伝え”って言ったんだよ。何事だと思ったら、自分で統一するって、逆らったら殺すって勢いで。遥に敵意向けてた奴とかチームとか片っ端から潰しはじめて」

先週、ということはあのフリマの日辺りだろうか。ならばあの大ケガは、やっぱり喧嘩で…




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