その夜電話をしようかと携帯を持ったのは11時をまわってからだった。誕生日おめでとうと言うには少し早いけれど、あと一時間起きていられる自信もない。寝てしまって約束を破るよりはいいだろうか、悶々と考えながら“志乃遥”の名前を呼び出す。
「……」
今はお祝いの言葉を言おうと、内容を決めているから気づかなかったけど…自分から遥に電話をするってあまりなかったかもしれない…そう意識した途端急に恥ずかしくなり、余計にドキドキと胸が高鳴った。
「……よし、」
発信、を押してプルル…と繋がるまでの時間もドキドキして、繋がったと思ったら間髪いれずに「もしもし」と遥の声が聞こえ、心臓が大袈裟に跳ねた。
「あ、もしもし…凛太郎、です」
「へへ、うん」
「…起きてた?今大丈夫?」
「起きて待ってたから、大丈夫」
「そっか、ごめんね、こんな時間」
「ううん、嬉しい。なんかワクワクする」
電話越し、嬉しそうに笑う息遣いにまたドキドキして、何を言いたかったんだっけと言いたいことが一気に飛んでしまった。ぎこちない沈黙が流れ、それでもそれは心地よくて自分の鼓動が頭の中でとくんとくんと響くのが分かった。
「えっと…」
「うん」
「ちょっと早いけど、誕生日…おめでとう」
「っ!ありがとう!」
「ごめん、一番に言いたくて…でも12時まわるまで起きてられないかもって、思って…」
「ううん、嬉しい!ありがとう」
「…誕生日プレゼント、何が良いかな」
「りんちゃんが居てくれたらそれで充分だよ」
誕生日の日に、という意味ではなく、これからも、という意味で。泣きたくなった僕をよそに「あと、ケーキ食べたいなあ。りんちゃんが作った」と、付け足した遥からは布団の中にいるのかもぞもぞと動いた音が聞こえた。
「りんちゃん」
「、なに?」
「電話してくれてありがとう」
「僕の方こそ…」
「あはは、なんで?俺が嬉しいんだから」
「僕も嬉しいよ。声、聞けて」
遥の声が心地よくて、それが耳元で僕に向けられていると思うだけで重かったまぶたがもっと重くなる。うとうとと、寝る直前の気持ちいい浮遊感みたいなものを感じながらまぶたを閉じるとへらりと笑う遥の顔が浮かんだ。
「遥、今ね、遥がくれたプラネタリウムの…点けてるよ」
「綺麗に映ってる?」
「うん…」
「あはは、眠そう。もう、寝る?」
「どうしよう…まだ、切りたくないな…」
「じゃあ、りんちゃんが寝るまで、俺一人で喋ってようかな」
「良いかも。じゃあ、僕が寝たら、切って」
「はい」
そのあと遥は今日のことを少し話し、それから明日は一人で買い物に行くよと言っていた。でも僕の意識はそこで途絶え、セットしたアラームの音で目が覚めた。
とても良い夢を見ていたような気がしたけれど、起きたときにはもう忘れてしまっていて少し残念だった。
─ to be continue ..
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