翌日、文化祭二日目も気持ちの良い秋晴れでグランドも校内も昨日と同じ賑やかさだった。二日目は昼までだから、昨日よりずっと短い時間しかない。そう思うと、豪華な飾り付けも派手な看板も目立つ服装や髪型も急に寂しく見えてしまう。気持ちの良い天気とか、紅葉が綺麗とか、食べ物が美味しいとか、秋はそういう綺麗な季節なのに寂しいと思わせる何かがあって、それによく似ているなと思った。

「音羽、志乃のクラス行った?」

「まだ行ってない」

「あ、そうなの」

「うん、何の展示なのか教えてもくれなくて」

「えー、なんでだろ。そんな疚しいものなかったと思うけど…」

「谷口くん、言っちゃだめだからね」

「ええ?言わないけど、なんで?なんかあったっけ?」

「何もないけどまだ秘密」

にやにや笑いながらなにそれと返した谷口くんに、遥からの返事はなかった。とにかく言わないでほしいということだけは伝わったみたいで、谷口くんもそれ以上は何も言わなかった。
二日目の校内は昨日より少しだけ行き交う人が少ないけれど、同じように楽しそうな声が響いていて。昨日行けなかったクラスや模擬店を見てまわり、途中森嶋に呼び止められ、茶道部の出しているお茶の券をもらった。元生徒会長という特権なのか、貰うのを躊躇った僕に自分も貰ったものだから気にしなくて良いと言ってくれた。

「志乃と行っておいで」

「ありがとう、でも、」

「俺、お茶の飲み方知らないけど、良いの?」

「大丈夫。茶室じゃなくて隣の和室に長机おいて座布団敷いた場所で飲めるし、休憩感覚で気にしなくて良いと思うよ」

「そ─」

「あ、いた!志乃ー!」

「っ、?」

「ちょっと教室居て欲しいんだけど、いい?」

慌ただしく駆け寄ってきたのは遥のクラスメイトだった。今から体育館で披露されるサッカー部のカラオケ大会を見に行くからと告げられた遥は、困ったように僕を見る。教室には高坂くんがいるらしく、一人残してきたから手が空いてたら行ってほしいという内容だった。

「いっておいで」

「え、でも、」

「僕も行って良いなら行くけど」

「うーん…」

「まだダメっていうならお茶飲んでるし」

和室のある特別棟は目の前で、おそらくステージ発表は20分から30分で終わる。それくらいなら全然待てるよと続ければ、「じゃあ、みんなが戻ってくるのと同じくらいに、俺の教室来て」と返された。

「展示、見てもいいの?」

「うん、準備しとく」

「準備?」

「うん、じゃあ、俺行ってくるから、来るとき教えて」

「わかった」

準備、か。一体何のだろう、と立ち止まったままの僕に、森嶋が一人で待つなら一緒にお茶飲もうかなと提案してくれ、二人で和室に向かった。お茶のマナーは僕も分からないし、簡易セッティングされた和室はありがたかった。出されたお茶と和菓子は美味しかったし、わりとみんな普通に足を崩して座ったり自由に飲んでいたから本当に普通の休憩所みたいだった。

「森嶋、ありがとう」

「あはは、もういいって」

「森嶋が声かけてくれなかったら知らないくらいだった」

「まあ、他の模擬店とかに比べたら立ち寄りづらいし、特別棟で解放されてるのはここだけだしね」

配布された冊子を端から端まで見ていたとしても、よし行こう、とはならなかったと思う。たぶん、制覇すると言っていた谷口くんたちも来ていないだろう。でもあえて聞くことはしないでおこう、と決めてブレザーを羽織った森嶋にそろそろ行くかと問う。

「うん、僕、このあと生徒会の手伝いがあるから」

「あ、そうなんだ、ごめんね付き合わせて」

「ううん、音羽とゆっくりできて良かったよ」

恐らく、森嶋は券を持っていても足を運ぶ時間がないから僕らに譲ろうと思ったのだろう。悪いことをしてしまったと僕も慌てて腰をあげ和室を出た。久しぶりに森嶋とゆっくり話をした。彼の穏やかな喋り方は落ち着くなと、それも久しぶりに感じた。落ち着いた喋り方だけど、はっきりあっさりものを言う。そういうところも、生徒会長ぽいと感じる要素のひとつだろう。

「じゃあ、またあとで」

「うん」

「あ、志乃のクラス、良かったよ」

「行ったんだ?」

「一通りは全部行ったから」

「そっか…」

「音羽、」

「うん?」

「…いや、楽しんで」

「ありがとう、森嶋も」

体育館はまだ賑やかだったけれど、ひと足先に遥の教室へ行くことにした。



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