文化祭受験を控え、その準備をしながら面接の練習をして、ダンスを覚えて小論文を書いて、という生活が瞬く続き遥とは帰る時間が合わなくなってしまった。それでも僕が帰れるまで待っていてくれたりする。校内で待つのも昇降口で待つのも、この居残る生徒が多い時期では目立ってしまうからと校門を出てすぐ近くの公園で待っていてくれることもしばし。木に囲まれたそこは案外静かで見知った顔もあまり通らないらしかった。

「隣のクラスは焼きそばだって」

「まー楽だよな、準備ほぼいらないし当日も交代してやれば自由時間そこそこできそうだし」

「忙しい時間って大体決まってるしな」

やっぱり、三年生で進学組となると準備や練習に時間を取るのが難しく、じっくり展示物を作ったり演劇の練習は出来ない。遥のクラスは半数以上が就職を決めていて、何か凝った展示物を作り始めていた。それでも僕の方が遅くなり、待たせてしまっている。待たなくて良いから先に帰りなとか、クラスの子がまだ残ってるならとか、言いたいことはたくさんあって。それでも遥が僕の手をとるから、素直にそれが嬉しいから、僕もその手を握り返す。

「あ、音羽くーん」

「うん?」

「このリボン、色違いでもう一つ欲しいんだけど自分でも出来る?」

「これ?簡単だからすぐできるよ?」

「ほんと?あと、ここにレース入れたいんだけど、どうやったらいい?」

「あー…こういう感じに?」

「うん」

「ちょっとこのまま持ってられる?付けてみる」

「ありがとう!」

流行のアイドルのダンスは、何人かでワンフレーズほどを踊って繋げていき、サビのところを女子みんなで踊るという振り分けだ。その最後の部分でセンターを引いてしまった子のリボンは、みんなより少し大きい。フエルトで簡単に作ったリボンに、渡されたレースを仮止めして確認すると大きな頷きが返ってきた。

「じゃあこのままつけるね」

「うん」

器用だねとか、上手とか、そう言うことを言われるのは慣れなくて少し照れる。こういう部分は出さない方がいいんだろうかと思っていたこともあって、それでも癖で出てしまうことだってある。でも意外と変には思わないらしく、「ありがとう」と言ってもらえるからむしろありがとうを返したくなる。リボンの出来上がりを喜んでくれた彼女に作り方を教え、僕はダンスの練習に加わった。

「で、右手を…」

「、え?」

「いいよ、そうそう」

「……で、ここでターン?」

「おー、めっちゃできてる」

「家で動画見てたら、まおが簡単に踊っちゃって…」

「あはは、想像つくかも」

「リボンとかも家で作ってたら手伝ってくれて、僕より上手に作ってた」

「女の子ってそういうとこいいよな〜男だとどうしても何作ってんのーって邪魔するし、ダンスの練習って踊ってれば意味不明な踊りで笑わせてくるし」

谷口家のその光景も想像がつくなと、先生が差し入れしてくれたスポーツドリンクを口に含む。日中は温かくても朝晩は冷えるからと、スラックスのポケットに入れていたカイロを引っ張り出す運動した今ではさすがに暑くて、冷たいスポーツドリンクが体に染みていくのが分かった。空気は乾燥していて、手も少しカサついている。もうそんな季節なんだなと、そのタイミングで思った。

「谷口ー、もうちょい練習したら俺らも一回撮ってもらおうぜ」

「ああ、そうしよ」

「とりあえず一つ終われば次のも頭入りそうだし」

「そうだな〜。でも編集組が一番すごいよな」

「あー、俺絶対無理。バラバラにとっても繋げる気しねぇわ」

じゃあ一発でオッケーもらってやろうなと笑った谷口くんに、その場にいたみんなが同調した。谷口くんのそういうところこそ良いなと思う気がする。僕なんかより、全然。そして谷口くんの気合の一言通り、僕らはそんなに時間を掛けずにオッケーを貰うことが出来た。
そして11月、入ってすぐの三日と四日の二日間僕らの学校の文化祭は無事開催された。天気も良くて、こういう行事の日は普段と違った空気が流れる校舎が妙に新鮮で胸がきゅっとした。遥とは一緒に登校したけれど、遥たちは教室での展示だからあまりくつろげないらしく鞄を置いてからすぐに遥は僕らのクラスにやってきた。

「遥のクラス最初に見に行ってもいい?」

「まだだめ」

「あはは、じゃお昼から」

「んー…」

「ダメ?」

「明日の、終わるくらいならいいよ」

「なにそれ」

正直、何を作ったのかは知らない。誰も公言しないから僕だけじゃなく、遥のクラス以外の子はほとんど知らないんじゃないだろうか。出来れば真っ先に行きたかったんだけどなと肩を竦めると「明日一緒に行こう」と小指を差し出された。事前に配布されたクラスごとの紹介の冊子には魅惑の宇宙というよく分からない名前が付けられていて、分かったことはその名前くらいだ。

「りんちゃんたちは今日だもんね?」

「今日の昼一番。流してる間はステージ裏に居るから一緒には見れないけど」

「…うん。でも一番前で見るよ」

それは相当目立つし、遥の近くに座ろうと争奪戦が起きそうだなとこっそり思いながら、新しい生徒会長の声が校内に響いてから体育館に移動した。その途中の教室は模擬店の看板やお化け屋敷の看板、部活動で催している展示などが文化祭らしくセッティングされていた。谷口くんはクラスメイト何人かと全部回るんだと楽しそうに言っていて、僕と遥はなんとなく二人で回るのかなと隣を片時も離れない男前を見上げた。

「遥、クラスごとに並んでるから、あっちの列だよ」

「バレないよ」

それは無理があるだろうと思ったけれど、一旦僕らから離れ自分のクラスの列に並んだ遥は開会式が始まって挨拶などが終わったところで照明が落とされるのを見計らって僕らのところへ来た。

「いや、志乃、たぶんバレてるぞ」

「谷口くん静かにして」

クラスの紹介VTRと、生徒会による茶番みたいな寸劇の間、それでも遥は先生たちに注意されることなく僕と谷口くんの間に無理矢理収まっていた。この暗さなら金髪も目立たないし、わざわざ静かに見ている中注意に動き回る方が目立つだろうと諦められているのかもしれない。
暗い中、ステージ上の演出に注目している周りの視線を避けるように、遥がこっそり僕の指に指を絡めた。肌寒いと感じていた僕には温かいその手が心地よくて、誰にも見えないしまあいいかと、指を絡め返した。



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