指定された広場まで、歩いて20分。
その付近から少しずつ人の多さが目について、はぐれてしまわないように小さな手をしっかりと握り直した。
「りんちゃん、ひろみ先生はー?」
ずらりと並んだテントやシート。洋服に雑貨、いろんなものがあって、まおはそう言いながらも一つ一つに目を輝かせていた。
「まお、手離さないで」
「ん!」
にこにこのまおに微笑み返し、少し歩き回ったところで見慣れた先生を見つけた。ひろみ先生と、ほかに二人。手作りのハンドメイドや子供たちも手伝ったらしい小物を売っていた。
「まおちゃん、来てくれたんだ!」
人の波に浚われないよう、立つ足に力を込めた。
「こんにちは」
「こんにちは、凜太郎くん。まおちゃん良かったね、お兄さんと一緒に来られて」
「うん!はるちゃんもね、一緒だよ!」
「えっ?」
ねー!っと、僕を見上げたまおの正面で、ひろみ先生は小さく首をかしげた。柔らかそうなボブの髪が揺れて、それにつられてまおも首をかしげる。僕が繋ぐ手とは逆の小さな手は、スカートの裾辺りでぶらりと揺れていた。あるはずの手がない。志乃の、大きな手…
「え、まお、志乃は?」
「えー?おてて繋いでたよ?」
おかしいなあ、と繋いでいたはずの手を眺める妹。まさか志乃とはぐれるとは思ってもなくて、でもまあ子供じゃないんだし心配することもないかと思った。それでも一応どこにいるのだと連絡しようと思い、携帯を出して固まってしまった。
「……」
知らないじゃん、志乃の連絡先とか。
「りんちゃん?はるちゃんはー?」
「あ、うん…」
「まおちゃん見てますから、探してきてくださって大丈夫ですよ?」
確かに売り場のスペースは結構広く、小さなその体が邪魔になることはなさそうだけど…
「ね、まおちゃん、一緒にお店屋さんやろうね」
「お店!?やる!まおも店員さんやりたい」
「じゃあお兄ちゃんが戻ってくるまで、先生と頑張れる?」
「うん!」
よしよしと頭を撫でた華奢な手はそののまま、まおの肩を柔らかく触った。
「あ…」
「この人混みじゃあ、探すの大変ですからね」
「すいません、それじゃあ…何かあったら、まおのリュックの中に僕の連絡先書いたカードが入ってるので、お願いできますか?」
「分かりました」
「りんちゃんいってらっしゃい」
「まお、いい子にしててね」
促されるまま、とりあえず今来た道を逆戻りした。別に、探さなくてもいいだろうに。志乃のことだから「見て見て、今買ってきたんだあ」なんて、へらへら笑いながらひょっこり現れる気がしてならない。それでも、一人になってしまって拗ねている図も浮かび、足を止めることはできなくて。
あの派手な金髪はこの人混みの中で浮いているはず。背だって高い。すぐに見つかりそうなものなのに、志乃はなかなか見つかってくれなかった。
「志乃っ」
どうして連絡先知らないんだ。
いや、そもそも志乃が携帯さわってるところ、見たことないかもしれない…いや、待て待て、今時の高校生が、しかもひっきりなしに誰かから連絡が来そうな彼が、所持していないなんてことは考えがたい。
「志乃ー」
何度目かの呼び掛けのあと、不意に肩を掴まれた。
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