今年のお盆も、おばあちゃんたちの家へ行く。母さんも休みが取れたから、今回も三人で。
だけどその前に、遥と二人で海へ行くことになっていた。母さんも去年のように行っておいでよと自ら声をかけてくれ、まおも連れてくと言ったらまおはお母さんと出掛けるからと断られてしまった。
海の日まではそれまでと同じように週に一度ほど会えるかな、というのが続いていた。樹くんもお盆前にもう俺は来なくて良くなると言っていたから、補習の休みが明けてからは会わなくなるだろう。遥とも、この海のあとはもうしばらく予定はない。夏休みはあと二週間、…何とも言えない寂しさみたいなこれは、きっとお盆が終わったらもっと大きくなる気がする。

「りんちゃん、出来たよ〜」

「あ、うん、じゃあこれは部屋に置いとこうね」

「うん」

遥との海を翌日に控え、僕はまおと二泊三日分の泊まりの準備をした。明日は出来ないから今日のうちに。まおは明日母さんとイベント盛りだくさんのひまわり畑に行く。三人でも行きたいねと言ってくれるけれど、たぶん、それは本心なのだけど、やっぱり“お母さん”という存在は強い。まだまだ甘えたい年頃で、まおはしっかりしているしなんでも手伝ってくれるから僕も忘れてしまいがちだけど、恋しいものは恋しい。そんな子供だから、母親を独占できることが無意識に嬉しいはずだ。だから僕も「今度行こうね」と、素直に返すことが出来た。
毎日プールに行くわりに、そこまで焼けていない顔がウキウキと僕を振り返る。

「りんちゃん」

「ん?」

「明日晴れる?」

「晴れるよ。でも、夕方はどうかな〜」

最近夕立が多いから、一時的には雨が降るかもしれない。予報では確かに晴れだったけれど、それだけは不安で明日はまおの着替えも持たせた方がいいだろうかと思った。

「晴れると良いなあ」

「てるてる坊主作る?」

「作る!」

「よし、作ろっか」

「うん!」

そのてるてる坊主のおかげかどうか、翌日は朝から気持ちの良い晴天で、相変わらずそれに負けないくらい眩しい笑顔の遥が僕を迎えに来た。

「はるちゃんだー!」

「あ、おはようございます」

「おはよう、久しぶりに顔見れた〜」

いつ見ても可愛いねと、まおに言うのと同じ感覚で母さんは続けたけれど、遥は普通に照れて頭を下げた。

「朝ご飯食べた?」

「食べてきました」

「よし、じゃあ気を付けてね」

「はい」

確かに、僕らが起きている時間にほとんど家にいない母さんは、僕よりずっと久しぶりに遥と会ったはず。今日から四日間の母さんのお盆休みは本当に貴重で、それを察しているまおは起きてからずっと母さんにべったりだ。

「行ってきます」

「はーい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい!」

「うん、まおたちもね」

だから遥と二人、行ってきますと背を向けても寂しそうな顔をしなくて、少しへこんだ。それを遥は仕方ないよと笑って慰めてくれたけれど、全然仕方なくないともっとへこんだ。

「あはは、ごめんね」

「いいよ、もう」

「りんちゃんみたいなお兄ちゃんがいたら、しっかりしなきゃって、思うかも俺も」

「僕そんなに頼りない?」

「逆。りんがしっかりして頼もしすぎるから、早く一人前になって安心させたいなって」

「そんなことないのに」

これで良いのか、と迷うことはよくある。でもそれを僕が言葉にするより先に、遥の手が僕の手をとり「今日は俺がりんちゃん独り占めするんだから、俺の事だけ考えて」と、なんとも無邪気な顔で言われてしまい、声は出なかった。
混雑する前の電車に乗り込み、去年と同じ線路を辿る景色はなんとなく懐かしくて、けれどはっきりと思い出すことが出来て不思議な感覚だった。ぴたりと重なる肩の下、膝の上に乗せた鞄で見えない手はしっかりと繋がれている。補習がどうだとか、お店はこうだとか、他愛ない話をしながら、それでも繋いだ手にはドキドキしていた。一年ぶりの海水浴場はすごい人で、少し早めに来たもののすでにたくさんの人で賑わっていた。

「良い天気!てるてる坊主のおかげだね」

「そうだといいけど」

行こう、と差し出された手をとり、僕らはビーチサンダルに履き替えて砂浜を進んだ。


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