翌日、志乃は約束通り昼前にやって来た。朝のどたばたを通りすぎ、一息つこうかという、とてもいいタイミングでインターホンが鳴った。玄関を開ければ、そこには見慣れない私服姿の志乃。シンプルなシャツにシンプルなズボン。アクセサリーも何もつけてなくて、でも、それだけで完璧な彼に、やっぱりイケメンってすごいなと思った。
「、おはよう」
「おはよう、りん」
世間は今日からゴールデンウィーク。
ゴールデンウィークと言っても、特にたいした用事はない。まおと過ごす時間がたっぷりある連休、だけど、それが何より嬉しくて楽しくてワクワクするのだからそれだけで充分なのだけど。それから、母さんも休みを取れたら三人でご飯を食べに行ったり。それが、今日は違う。
だらしなく口元を緩めて笑う志乃を見上げて、そう気づいた。気づいて、またどきりとした。
「とりあえず、上がって」
「お邪魔します」
「はるちゃーん?いらっしゃい、上がって上がってー」
「お邪魔します、まおちゃん」
せっかくなので志乃がまおの相手をしてくれている間に、二階の戸締まりを済ませ、ガスの元栓を締め、最後に一階の戸締まりもして、リビングのソファーで仲良く絵本を読む二人のもとへ戻った。
「もう出られるけど、行こうか?」
ひろみ先生からもらったプリントには、出店している団体名やお店、その名前や内容が軽く説明を添えて書かれていた。そのなかには食べるものもあったからお昼はそこで済ませようと、財布を掴む。
「行く。はるちゃん、行こう」
「うん」
まおがほったらかした絵本を、志乃は律儀に小さな本棚へと戻してくれた。子供の扱いもうまいし、そういう気遣いもできるのか。そんな面を見ていると“不良”なんて噂が、全くのガセに思えてならない。
「まお、片付けはちゃんと自分でしなきゃダメだよ」
「…はーい」
「今度から気を付けようね。よし、行こう」
ゴールデンウィーク一日目は、天気もよくて外に出るには気持ちのいい温度で。右には志乃の、左には僕の手を握って、まおはやっぱり上機嫌で歩き出した。そのときはまだ、こんな清々しい日に事件が起こるなんて、考えてもいなくて。
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