「りんちゃーん」

「んー?」

「明日から学校休みなの?」

「そうだよ、ゴールデンウィーク」

「ふーん」

「保育園のフリーマーケットいく?ほら、去年ぬいぐるみのしーちゃん買ったとこ」

「まおお店屋さんしたやつ?」

「そう」

「いきたーい」

いや、あれは完全に僕が悪いと言うか…お店屋さんをさせてあげたというより、戻ってこない僕にまおが不安にならないよう先生が気を遣ってくれただけだ。まおを残して拉致されたことが鮮明に蘇り、苦笑いが溢れた。怖かったけど、今思えば遥はそれだけすごい“不良”でその遥にその時既にすごく大事にされていたんだなと分かる。

「じゃあ行こうね」

「うん!」

「他には?どこか遊びに行く?」

「んー…たまちゃんのおうち!」

「そう、たまちゃん…え?」

「お休みの日に電話してくれるんだって!」

「え、まって、たまちゃん?」

まおの新しい友達だ。
たまちゃんさえちゃんみほちゃんが良く出てくる名前で、その中でもたまちゃんの登場率は一番高い。そうか、まおもそんな歳なのか…

「たまちゃんのお家は分かるの?」

「電話して教えてくれるって!」

「そう…電話、僕にも代わってね」

「わかった!」

学校帰りに寄り道したり、自転車でどこまでも遊びにいってしまう男の子とは訳が違う。まおは女の子…しかも特別可愛くて天使…まおの口から良く出る子の名前はクラスの連絡網でちゃんと確認してある。朝一緒に登校する中にたまちゃんがいるのも知っている。ただ、たまちゃんはもう少し先の場所で合流するらしく、僕はまだ見たことがない。同じ保育園の子だったら分かるし、親御さんも顔見知りの可能性が高いのだけど…こればっかりは仕方ない、これから先こういうことが増えていくのだろう。中学生になっても高校生になっても、同じようにまおは新しい友達が出来てそのたびに僕はその友達を覚えていく。

「ただいまー」

「まま!」

「おかえり」

「ただいま!二人とも!」

まおはお箸を持ったまま立ち上がり、早く帰ってきた母さんに飛びつくと、危ないから箸は置こうねと制された。

「ご飯食べる?スープ温めるよ」

「うん、ありがとう」

一足先に食べ始めていた夕食は、まおが材料を切ってくれた野菜スープと豆腐ハンバーグ。それをにこにこで紹介する可愛いまおに、母さんも笑顔で頷いて美味しい美味しいと何度も言っていた。本当に、いつも通りの味でもいつもより薄味でもまおが頑張ってお手伝いしてくれたというだけでいつもの何倍も美味しいのだ。そういえばその話を遥にしたとき、「覚えとく!」と目をキラキラさせていたなとふと思い出し、そうか、遥も料理を作る人になるつもりでいるからかと今さらになって納得した。

「ままも明日からお休み?」

「んー、明日はお仕事。でも二日間お休みあるよ」

「まお、友達の家に遊びに行くんだって」

「そうなの?たまちゃん?」

「うん!」

「あとねー、りんちゃんと…お店やさん?」

「まおの行ってた保育園も出てたフリーマーケット、今年も行きたいんだって」

「そうなんだ、楽しみだね」

「うん!」

三人で夕食を食べるというのは本当に貴重で、食べ終わってからもしばらくまおのご機嫌な声が響いていた。翌日、いつもより少し遅めに、けれど休みにしては早起きな時間に遥はやってきた。

「おはよう」

「おはよ」

「まだ準備できてないから、ちょっと上がって待ってて」

「お邪魔します」と言いながらも、遥は少し躊躇うように靴を脱いだ。なんだろうと振り返ると、微妙な顔をした遥と目が合った。

「どうかした?」

「りんちゃん」

「ん?」

「昨日言ってたフリマってやつさ…」

「うん?」

「……本当に行くの?」

「あ、ごめん、無理に誘うつもりはなかったんだけど…無理なら二人でいってくるから大丈夫だよ」

「ううん、そうじゃなくて」

「そうじゃなくてさ」と、繰り返した遥は眉を下げて少し唇を尖らせて去年、という単語を口にした。

「りんちゃんに怖い思いさせちゃったじゃん去年…その、平気?」

「え?あー…あれはフリマと関係ないでしょ」

そりゃ、あの日あの場所に行っていなければ拉致なんてされなかったかもしれない。でも、もしあそこに行っていなくても、いつか同じことをされたかもしれない。違う日、違う場所、たまたまあの日だったと言うだけで。

「だから大丈夫。それに、あれから何もないし」

まあ、場所が場所なだけに、もしかしたらあの時いた人を見かけるかもしれない。でもそれは、そんな可能性はいつだってある。そう言えばアマさんとも道端で一度ばったり会ったな…遥には言えてないままだけど。

「心配しなくていいよ」

「分かった、今度は絶対手離さないね」

「それは目立つからいい」

「なんで!」

「あー、はるちゃーん!おはよーう」

「わっ、おはようまおちゃん」

リビングに入ると宿題をしていたまおが飛び付いて、少し背の伸びたその体を遥が抱き上げた。



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