「今日ねー、たまちゃんと仲良くなったんだよ〜」

「たまちゃん?」

「うん、あと、さえちゃんとみほちゃんと…」

小さな指を折りながら名前をあげる天使を微笑ましく思いつつ、新しい環境でも何ら問題なく順応する妹に素直にすごいなと感心した。

「楽しい?学校」

「たのしいよ!」

「そう、よかった」

「りんちゃんも楽しい?」

「楽しいよ」

「えへへ、そっか」

もうどうしようもなく可愛いなと一人悶えていたら、意外と早く遥が現れた。まおも反応はしたけれど、玄関まではついてこなくて、僕は一人玄関のドアを開けた。

「りんちゃん!」

「あ、」

相変わらずの綺麗な金髪はそのままに、横も後ろも短くなった髪を「どうかな」と照れ気味に言う遥。いや、今まで本当に男前だと思ってたし、イケメンで間違いなかったけど、それを上回るくらいに格好よくなっている。今まで隠れていた耳元や、首の後ろ辺りが露になり、たまに伸び放題で無理矢理切っていた前髪もきちんと整えられている。

「へ、へん?」

「ううん、変じゃない。全然変じゃないよ」

「ほんとに?」

「うん」

たぶん、男前が全面的によく見えるようになったから、余計に格好良くなったように感じるのかもしれない。

「良かった」

それはもう、ぱっと花が一斉に開花したかと思わせるくらい眩しい笑顔を浮かべ、遥は僕を抱き締めた。嗅ぎ慣れないにおいは美容室独特のもので、でもそれより気になったのは抱き締められたときに見える景色が少し変わったこと。今まで髪でよくは見えなかった首元がクリアに見えて、そこになんというか、今まで以上に色気みたいなものを感じたのだ。たぶんこれは好みの問題なんだろうけど、僕としては今の方が似合っていると思う。

「こんなに短くしたの初めてかも」

「そうなの?そういえば、なんで切ろうと思ったの?樹くんの髪型、」

「それは違うから」

「あ、そう、」

「髪型変えて目立たなくするのも良いなって思ったのは樹見てだけど。だから黒くしようかなって聞いたの」

なるほど。でも、これは逆効果かもしれない。むしろファンが増えるのでは、と心配になったことは黙っておこう。格好良いのは事実だからどうしようもない。

「はるちゃーん?」

玄関からなかなか中に入ってこない僕らに、まおがリビングから顔を出した。そしてすぐに気づいたのか、キラキラした目で駆け寄ってきて「はるちゃんカッコいい!」とはっきり口にした。「ありがとう」なんて笑いかける遥にカッコいいカッコいいと繰り返すまお。

「カッコいい!ね、りんちゃん」

「え、うん、格好良いね」

「嬉しい」

僕だって言われたことないのに…まあ、格好良くないから仕方ないにしても…ショックだ。

「じゃあ、明日また来るね」

「う、うん」

「もう帰るの?」

「今日はもう遅いからね。まおちゃんもそろそろ夕ごはんの準備手伝うでしょ?」

「うん!」

「だから今日はもう帰るね」

「はーい、また明日ね!」

「うん、また明日」

りんちゃんも、また明日。遥はそう耳元でささやいて、軽く耳たぶにキスをして帰っていった。

「りんちゃん顔赤いよー?」

「ごめん、大丈夫。ご飯の用意しよっか」

もう、イケメン怖い。



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