凛太郎と別れ、自分の席についてからもう一度ため息を落とした遥は春休みの間に少し短くなった樹を見て、耳元で揺れる自分の金髪をつまんだ。
「ねみー、」
「じゃあもっと寝てれば良かったのに」
「うるせーな、真面目に来てんだから良いだろ。つーかお前らこそ、家でいちゃついてから来ればいいじゃん」
「明日からそうする」
「あっそ。で、手紙どうすんだよ」
「どうもしない」
「捨てんの?」
「だめ?」
「別に。お前が良いなら良いんじゃね。どうせ見たって好きだの呼び出場所とかしか書いてないだろうし。そんなの見たって答えないし行かないだろ」
「うん」
教室に入る直前。ドアをくぐる前に遥が振り向くとまだこちらを見ていた凛太郎と目が合った。軽く手を振ってからその体は見えなくなってしまったけれど、それだけで胸の奥がじわりと熱くなる。その感覚が消えないように目を伏せ、気を紛らすように「俺も髪の切ろうかな」と呟いた。
「はあ?切れば」
「黒髪に戻して短くしたら変かな」
「知らねーよ」
樹は赤く染めているけれど、もともと少し赤みがかった髪をしている。中学に上がるとすぐに目をつけられ、染めるなとうるさく言われ続け、結局開き直ったのかなんなのか自ら真っ赤に染めてしまった。それ以来このスタイルを貫いているのだ。
「困ってねえなら変えなくて良いだろ」
「でも目立つじゃん」
「今さらかよ。…ああ、そういえば去年の夏休み黒くしてたよな」
「うん」
「だったら音羽にも聞けば」
男子高校生がそんなことを相談するのか、という疑問はないまま、遥は曖昧に「そうだなあ」と呟いて机に肘をついた。凛太郎の席だったはずの隣の机は、全然知らない女の子のものになってしまった。机の横フックには、英語のロゴが入った紙袋がぶら下がっていて、本格的に凛太郎の面影はない。
「まあ何にしてもさ、お前より音羽の方が苦労するんだからちゃんと見てろよ」
「そんなの樹に言われなくても分かってるし」
「あっそ」
「はー、りんちゃんのとこ行ってこよ」
「ショートまでには戻ってこいよ」
「はいはい」
「返事は一回」という樹の嫌みを背中で交わし、遥は凛太郎のクラスへ足を運んだ。ドアのガラスからそっと中を覗くと、凛太郎はきちんと席に座って本を読んでいた。けれど、ドアを開こうとした遥を遮るように、不本意ながら見慣れてしまった眼鏡面が凛太郎に声を掛けた。
副会長だ。今は会長だかなんだか知らないけど、森嶋だ。
やっぱり自分より凛太郎の方がよっぽど心配じゃん、と思ってしまうのはいつものことで、凛太郎や樹があきれる原因はそこにあった。
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