ソファーに座る遥の足を跨いで肩に手を置気軽く唇を重ねてすぐに離れると、啄むように唇を食まれて捕まってしまった。

「はぁ、ん…」

「りん、りんちゃん、」

「っ、はる…か、耳…やめて、」

「ごめんね、やだ?」

「くすぐった…い」

「分かった」

「、はるかっ」

何も分かってないじゃないか。キスするのと変わらない唇の熱さと耳たぶを緩く噛むくすぐったさに肩をすくめると、ぐっと腰をひかれて余計に逃げられなくなった。耳にダイレクトで響く恥ずかしい水音に目を瞑っても、体の奥で燻り出した熱に気付かずにはいられなくて。これ以上はダメだな、やばいな、そう自覚しているのに拒絶もできなくて。

「ふ、…あっ、ダメそれ…痕残る、から」

「見えないよ、耳の後ろだもん」

「みえるでしょ…」

「こうやって髪の毛退けて、顔近づけなきゃ見えない」

「それ、見えるってこと─」

「俺しかこんな近寄っちゃだめだもん」

「…なに、恥ずかしいこと言って…」

「恥ずかしいね。でもほんとのことだし」

「……」

「真っ赤〜」

「遥も赤いからね」

「いーよ、りんちゃんしか見てないし」

恥ずかしい。ほんとに。恥ずかしげもなくこういうことを言えてしまう遥に、代わりに僕が恥ずかしくなって余計に熱くなってるんじゃないかと疑うほどだ。諦めて遥の首に腕を回して抱きつくとすぐに抱き締め返してくれて、そのままもう一度ソファーに押し倒された。

「いーい?」

「それ、聞くの?」

「えっ、だって…」

「嫌って、言ったことないじゃん」なんて、言えないけど。そんな本音を抱いていることを知られるのも恥ずかしいけど。何より、不純だってことは分かってるから言えない。親がいない、兄弟もいない、そんな家で共同のスペースで、それでも欲に負けて自分から受け入れたいと思っていることを。でもどうしても触れたくなってしまうから、恋って怖いなって思うんだろう。
自分が誰かを好きになって、こんなに愛しく思うなんて考えられなかった頃、同じように恋に対しての怖さも抱いてなかった。淡い恋心の先にこんなに重い感情があるなんて考えもしなかったのだ。

「いいよ」

「えっ」

「え、」

「あ、ううん、なんか…りんが男前すぎて…」

「何、やめる?」

「や、やめない!りんちゃんのそういう男前なとこも大好き」

「なにそれ」

小さく笑うと、遥も口元を緩めてそのままもう一度唇が重なった。慌てて閉めたカーテンの隙間から差し込む春の陽射しから逃げるように体を寄せあって、必死にしがみついて、唇が腫れるくらいキスをした。

そのあと僕は宣言通り雑巾作りを開始した。まおが学校に持っていく用を二枚と、ついでに古くなったタオルで家用の雑巾も縫う間、遥は本当に大人しく待っていてくれた。微妙な沈黙が、なんだか余計にむず痒くて恥ずかしくて、でも自分から口を開くのも躊躇われて無言でちくちくと針を進めた。
遥の携帯が鳴ったのは、ミシンでががーっと縫った雑巾に、ピンクの糸で“おとはまお”と手で縫い付け終わる頃だった。

「長いけど、電話じゃない?」

「えー、りんちゃんといるのに電話出るの?」

「大事な用かも」

「……樹だよ?」

つまり大事な用事ではないということなのか、画面を確認しただけでぽいっとソファーに置かれたそれ。樹くんに申し訳ないなと思いながら裁縫道具を片し始めたら今度は僕の携帯がテーブルの上で震えた。

「あ、樹くんだ」

「えっなんで」

「遥が出ないからじゃないの」

「なにそれ!俺が出る!いい?」

「どうぞ」

「もしもし!何の用?」

通話ボタンを押すなり喧嘩腰で喋る遥に苦笑いを溢し、役目を果たした針と糸を裁縫箱に戻す。遥の不機嫌な声は耳を澄まさなくてもよく聞こえ、樹くんに悪いなあと思いながらその隣に腰かけた。



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