「谷口くんと、なに話してたの?」

「……え?」

「楽しそうに喋ってたから、なんか、声かけられなくて…あと、なんで俺手伝ってないんだろ悔しいな、とか…りんちゃん声かけてくれたのに、全然聞こえてなくて、ごめんね」

「えーっと…」

「ごめん、こんなこと言いたいわけじゃないんだけど、なんか…りんちゃん朝から変だったし、でも谷口くんとは普通にしてるし、俺なんかしたのかなって…」

「ちょ、ちょっと待って、変って僕が?」

「うん」

一体なんのことだろう。
本当に分からなくて首をかしげたら、遥は眉を下げて「朝、何か言いたそうだったでしょ?」と言った。

「朝…あ、あー…」

「うぇっ、なに?やっぱりなんかあるの?」

「や、違う違う、心配しただけなんだけど…」

「心配?」

「遥さ、ちょっと頑張りすぎじゃないかなって」

「頑張りすぎって、勉強のこと?」

「うん、昨夜も、何時までしてたの?」

「……」

「頑張るのはもちろん大事だけど体壊したら意味ないよ?」

遥は意外と早寝早起きで、ご飯もきちんと食べる。そういうのが崩れるだけでも体に負担はかかるだろう。何より、そこまで一人で頑張り続けるのは辛いんじゃないだろうか。それをしている遥が心配だと言えば、「でも俺、そうしなきゃ出来ない」と泣きそうな声が返ってきた。

「僕の説明、とかわかりずらかった?」

「えっ、ううん、そんなことないよ!ただ、りんちゃんに迷惑かけたくないし」

朝と同じ答え、だ。ここは、僕の思ってることをきちんと言うところなのかな。谷口くんの励ましでは、こういうときに言い合え、ってことだった気がするんだけど。

「…ほら、樹に迷惑かけてたって言ったでしょ?あれ、昔からわかってはいたんだけど…前のテストで樹に手伝ってもらわなかったじゃん。そしたら樹の順位すごいあがってて…もしかしてりんちゃんもそうなんじゃないかって…俺に教えてたら自分のこと出来なくて成績下がっちゃうんじゃないかって、そう思ったら、迷惑かけたくないな、って」

「それは違う…」

「へ、」

「僕もそうだけど、樹くんも迷惑とか思ってないよ。もし思ってたら毎回気にかけて教えたりしない」

本当に面倒ならとっくに愛想を尽かしていると思う。樹くんは面倒見が良いし、友達思いで優しいけれど、嫌ならスパッと言う性格だと思うし。なんだかんだ言いながら遥の事を助けるのは、樹くんが愛想を尽かしていない証拠。それをどんな言葉で伝えたら良いのか、そこまでは考えがいかなくて、僕はとにかく“頼ってほしい”という思いで言葉を選んだ。

「遥が僕に頼ってほしいって思ってくれてるのと同じだけ、僕も遥に頼ってもらいたいと思ってるよ。そりゃあ、僕にできることなんて…少ないかもしれないけど…」

家のこととか、お父さんのこととか、と、脳裏を過ったそれを隅へ押し退け、単純な自分の気持ちだ。

「好きな人に頼ってもらいたいって、それだけのことだよ」

「りんちゃん…」

「テスト勉強ひとつで大袈裟だね、ごめん」

「う、ううん、」

「でも、このまま微妙な距離あるのは嫌だなって…そういう話を、谷口くんが聞いてくれたんだ、さっき」

「谷口くんが…」

「僕、誰かと付き合うのなんて遥が初めてだし、そういうのよく分からないから…自分じゃ、分からなくて」

本当に、学年末の忙しい時期に、テスト勉強のことだけでこんなに大袈裟に深刻な顔をしていることが、言葉にした瞬間可笑しくなった。可笑しくなって、胸がすっとした気がした。

「授業、行かない?」

「……」

「今なら一緒に戻るよ」

「…いく」

「じゃあいこう。教科書もとりにいかないとね」

手ぶらでここにきたことは一目瞭然。埃っぽいここに、遥の勉強道具はない。一度教室に戻り、生物室へ行くとなるとなかなか時間がかかる。でも行かないよりはずっといいはずだと一人頷き、僕の腕を掴んでいた遥の手ごと軽く引いた。

「行こ」

「いく。けど、ちょっと待って」

「ん、どうしたの」

「ちゅーする」

「えっ、今?」

「今」

「ここで?」

「ここで」

どこにそんな雰囲気と流れがあったんだと突っ込む間もなく、腕を引き返されてぶちゅっと思いきり唇を重ねられた。いつもみたいなふにゃふにゃのキスとも、欲情したときの色っぽいキスとも違う、本当に盛大にぶちゅっと唇がつぶれるようなキス。

「ん、」

「ふっ、苦し…」

「きもちーね」

閉じたまま重なった唇のおかげで余計に苦しい。だからといって薄く口を開いたりしたら舌が絡まって、すけべなキスをされるに違いないから我慢するけど。なんて、そんなことを考えていた僕とは違い、遥は少し顔を離して唇同士が触れたままいたずらに笑った。

「ほんとは谷口くんが羨ましかった」

「え、そうなの?」

「当たり前じゃん。羨ましかったし心配もした」

じゃあやっぱり、意地を張っていた部分もあったわけだ。なんだ、変わらないじゃないか。そう思ったら僕も口元が緩み、再び唇が重なった。もう一度思いきりくっついたあと、それは徐々に緩やかなものになり、軽く啄んで離れていった。

「よし、行く」

「満足した?」

「……うん」

頷きつつ、本当のところはそうでもないとうのが顔に出ていた。それこそ尻尾はしなりと垂れて、耳も元気なく下がっているような、そんな光景が浮かぶ。

「じゃあ、行こっか」

それが可愛くて、最後に僕からキスをした。
授業には二十分も遅刻してしまったけれど、それで内申点を減点される、なんてことはなかった。

─ to be continue ..




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