「え、何が?」

「いや、志乃が…冷めたとか、どうとか」

「あー…冷めた、までは思ってないけど、やっぱり少しずつ変わるのかな、とは…思う、ね」

「ないないないない絶対ないね、それは」

「ええ?」

「志乃のことよく分かんないけど、それはないと思うな〜」

「そうかな…でも、あんまり僕に頼りたくないとは思ってるみたい」

「それはさ、誰でもそうじゃん?迷惑かけたくないなーとか、でも逆に、相手からしたら頼ってほしいし迷惑かけられても良いし、むしろ迷惑とか思いもしないし。お互いそういうことあって、ほら、喧嘩とかさ、倦怠期とか!あるんじゃねえの?だからそういうの言い合って確かめ合う、的なのが必要なのかもな」

「…すごいね、谷口くん」

「え?」

「なんか、大人だ」

「ちょっ、俺なんて全然!やばい恥ずかしいわ…ごめん、忘れて」

「あはは、なんで?むしろありがとうって言いたいくらいなんだけど。僕、こういうの誰かと話したことないし、恥ずかしいけど…うん、やっぱりありがとう」

重たい荷物だったのに、全然苦にならないほどあっさり生物室についた。手伝ってくれたことと話を聞いてくれたことにもう一度ありがとうと言うと、谷口くんは少し照れたように笑って「どういたしまして。また相談してよ」と言った。友達っぽい、なんて、恥ずかしいことを思ったのは僕だけだったかもしれないけれど、一年でこんなに状況が変わったことは僕にとって大きすぎた。

「おー、音羽ありがとなあ」

「あ、先生!こんなん一人じゃ無理だから」

「なんだ、谷口も手伝ってくれたの?悪かったな〜。お礼に…はい、飴ちゃんやる」

「おばさんかよ。もらうけど」

先生から手渡されたイチゴみるくのあめをポケットにしまうと、ちょうど五限の予鈴がなった。そのあとぞろぞろとクラスメイト達がやってきて、僕らも席についた。ギリギリに入ってきた高坂くんに教科書を受け取った谷口くんが「あれ、志乃は?」と、問う。なかなか来ないなと気にしつつ、でも高坂くんと一に来るだろうと思って待っていたのに…今その隣に遥は居ない。

「え、来てない?結構前に出てったけど」

「来てない…よな」

「うん、来てない」

「なんか急に音羽は?って言い出して、視聴覚室に荷物取り行って、そのまま先生物室行ったけどって伝えたら教室出てったぞ。てっきり追いかけてったのかと」

「ほらほら席つけー」

「先生、志乃がまだ来てない」

「サボりかー?」

それはない。それはないけど、このまま来なければサボり扱いになってしまう。今や遥の遅刻やサボりなどゼロに近いというのに、こういうことが一度でもあれば“また”居ないのか、という生徒に分類されてしまう。それは嫌だなと、開いていたノートを閉じて立ち上がった。

「僕、探してきます」

「え、音羽が?まあ、谷口よりは安心だけど」

「どういう意味?」

「いやほら、そのまま寄り道しそうだから。その点音羽は安心だなって」

「ひどいなおい」

「はいはい、座った座った。じゃあ音羽、あと一分で戻ってこいよ〜今日DVD見るだけだし、見たくないやつは勝手にテスト勉強させるだけだし」

そもそも最初からDVD鑑賞じゃなく、テスト勉強で良い気がする。というのは伏せて、生物室を出た。でもどこに居るのかさっぱり分からなくて、とりあえず教室に戻ってみた。

「……いない、か…」

それからトイレ、視聴覚室を覗いたけれどおらず、先生に指定された一分はとっくに過ぎてしまった。でも付け加えられた言葉に、多少遅れても良いよ、みたいなニュアンスを含んでいたのは間違いない。それから屋上も思い付いたけれど今日はあんまり天気良くないし…あとは…

「生徒会室…」

旧校舎の、生徒会室。存在を忘れてしまうほどに、最近は足を運んでいない。つまり、遥のサボりが減ったということにも繋がるわなのだけど。他に思い付く場所もないし、行くだけ行ってみようと決めて、人の気配のない旧校舎へ入った。
久しぶりの旧校舎は、不安になる程静かで、けれど足は迷いなくそこへ向かってくれた。正直、目指す部屋はいつも隣に寄り添うように座ったり、キス、をしたりした場所だからか、思い出すと恥ずかしくなるんだけど。
“生徒会室”埃で表面が白くなったプレートの文字を確認してからドアに手をかけると、鍵がかけられていて開かなかった。ガチャ、と重たい無機質な音がして、ノックをしてみたけれど返事はない。

「……遥、僕だけど、いない?」

冷たいドアの向こう、何となく人の気配を感じるのに…返事はない。

「授業始まってるよ?今なら、一緒にもど─」

ガチャン、と声を遮ったその音に口をつぐむと、ゆっくりドアが開いた。「遥?」と呟いた声を飲み込むように中へ引き込まれ、またすぐに施錠する音が響いた。

「え、遥?どうしたの?」

「……」

せっかく見つけたのに、ここから出るつもりがないらしい遥に、腕を掴まれて動けない。

「何かあったの?」

「りんちゃん、」

「ん?」

「……」

掴まれていた腕を引かれ、抱き寄せられたみたいに胸に抱え込まれる。もう一度どうしたのかと問うと、情けない声が耳元でぽとりと言葉を落とした。



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