「あの、どうし…」

「りん、りん…」

「まっ…くる、し」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、というかもう絞め技を掛けられるんじゃないかと思うほど強く抱きしめられて、いったいどうしたんだというより先に窒息死しそうで。なんとかその胸を押して、僅かな隙間で大きく息をついた。

「ご、ごめん」

「は、あ…大丈夫、お昼、食べよう」

「うん…」

頷きながら、志乃は僕に凭れ掛かって目を閉じてしまった。そしてすぐに気持ちよさそうに寝息をたてて、規則正しく肩を小さく揺らし始めた。もしかして早起きさせてしまったんだろうかと心配になってみても、当の本人は子供のように無防備に眠ってしまっているのだ、答えは返ってこない。

「……」

仕方なくもくもくと自分で作ってきたお弁当を食べ、片づけて、僕もそっと瞼を下ろした。少し高めの志乃の体温が心地よくて、眠りに落ちるまで、そう時間はかからなかった。僕自身、昨夜はよく眠れてしなかったのかもしれない。そんな自覚はないけれど、こんな時間にこんなところで、眠くなってしまったのだ。きっと、浅い眠りだったんだろう。

そんな考えの途中で完全に意識は途切れた。
目が覚めたのはふと額に柔らかいものが触れた瞬間。頭がゆっくりとゆっくりと覚醒する。

「……」

「おはよう、りん」

「っ…」

ぼやける視界が徐々にクリアになり、目の前にあった志乃の綺麗な顔に心臓が跳ねた。
まだ夢でも見ているんじゃないかと、もう一度瞼を下ろしてしまうほど驚いた僕は、一度深呼吸をしてから再び目を開けた。…それでもやっぱり、志乃の顔がそこにはあって。目覚める前に額に感じたあれは、なんだったんだろうか。

「え、と…」

「良く寝てたね」

「……今、何時?」

「もうすぐ六限終わるよ」

「えっ?」

と言うことは…つまり僕はかれこれ二時間ほど眠ってしまっていたらしい。慌てて立ち上がろうとして、結構しっかりソファーに埋められていた体に驚いて体勢を崩す。

「わ、大丈夫?」

「う、うん…ごめん」

志乃に支えられて腰を上げ、ランチバックを持ってそこを後にした。志乃はやっぱり鍵をかけると、それをポケットにしまった。一体どうやって入手したんだろう、という疑問は、そのまま胸に押し込無ことにして。
それから教室に戻ると、ちょうど授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、何食わぬ顔で僕らは席に着いた。帰りのショートで担任の先生に何か言いたげな目を向けられたけど、志乃がちらりと先生を見ただけで、その口は閉ざされた。



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