「りんってあんた?遥連れてくぞ」

「行かないって」

「じゃあ放課後」

「それも無理」

「だからなんで?話はまだ終わってないだろ」

「もう終わってるって。学校終わったら、まおちゃん迎えに行くんだから」

「……まおちゃん?」

さらりと、志乃の口から出てきた妹の名前。え?と、本日二度目の間抜けた声が漏れた。

「そう、まおちゃん。だから無理」

迎えに行くと、志乃に教えてはいないはずなんだけど。なんとなく、朝の行動で読み取ってくれたのか、学校帰りに一緒に歩いているところを見てそう思ったのか、志乃は当然の様な顔をして赤髪くんにそう言った。

「誰だよそれ」

「樹には関係ない」

「関係なくないだろ、おら、こい」

「行かない」

強引に掴まれた腕を振り払い、志乃はそのまま僕の手を取って歩き出した。志乃と赤髪くん…イツキというらしい…の言い合いに、教室はしんとしてしまっていて。息苦しさを残したまま、志乃は教室を出た。もちろん、イツキくんの引き止める声と足音は僕らを追ってくる。
それでも志乃は足を止めない。

「昨日話はついたでしょ。だからもういいの」

「遥!」

「あの、志乃…僕のことはいいから、彼の話─」

「俺はりんとご飯食べたいの」

やっと絞り出せた声は、少々強めに発せられた志乃の声にかき消されてしまった。初めて自分に向けられたその強い声に、反射的に肩が震えてしまい、志乃の足が止まる。

「ごめん、大きい声出して」

「あ、いや…大丈夫、だけど」

しゅん、と垂れてしまった眉に、それ以上何かを言うのは無理で。ただ、今度はゆっくり歩き出した志乃に導かれるまま、昼休みの廊下を抜けた。後ろからはまだ、イツキくんの声が追いかけてくる。
僕はそれを気にしながらも遥かに導かれるまま足を進めた。たどり着いたのは旧校舎の生徒会室だった。と言っても、すでに使われていないそこには何もない。机とソファー、もう使うことのない少しの書類が棚にある以外なにも。少し埃っぽくはあるけれど、生徒会室らしいふかふかのソファーは昼寝をするには充分そうだった。というか、ここ、鍵かかってたけど…何故か志乃はその鍵をズボンのポケットから出して、何でもない顔をして「入って」と言った。大人しく言われたまま進み、向い合せに置かれたソファーの片側へ腰を下ろした。すると、ガチャッと鍵のかかる音がして、ぎょっとしてドアの方を見れば、何とも言えない顔をした志乃がこっちを見ていた。

一人閉じ込められたのかも、なんて考えが過っていた僕としては、そこに志乃が居ていくらか安心したのだけど。

「遥あ!おい、どこだっ」

こっちの校舎まで尾行されていたのか、イツキくんの声が響く。幸いにも、幸いなのかはわからないけど、とにかくどの部屋に入ったかは分かっていないようだった。

「志乃?」

黙っていれば見つかることはないだろうと、志乃は口人差し指を当てながら、静かに僕の隣に腰を下ろした。三人掛けほどのサイズのソファー、まさか隣に座られるとは思ってなかった…しかも、こんなに近く。

「し、」

「りん」

お弁当を食べにここへ来たはずなのに、何故か志乃の手がそっと僕を引き寄せた。ぎゅうっときつく抱きしめられる音が、鼓膜を揺らす。



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