まおとソファーに横になり目を閉じるとすぐに意識が遠退いた。目が覚めたのは母さんが帰ってきた時で、時間は五時半だった。寝すぎたかと飛び起きたものの、寝ていたのは30分ほどで、感覚よりずっと時間は経っていなかった。

「ただいま〜あ、寝てた?」

「少し」

「ごめんね起こしちゃったね」

「ううん、ご飯の用意するね」

「お蕎麦?」

「うん」

「じゃあままは横で巻き寿司作るね」

なんで巻き寿司なのか知らないけど、買い物袋から材料を取り出す母さんはご機嫌だ。

「あ、はるちゃん今日は来ないの?」

「あーうん、家の手伝いするって」

「えっ、そうなの?てっきり来ると思ってたくさん買ってきちゃった」

「残ったら明日食べよう。おせちも作ったから、一緒に」

「そっか〜そうだね、残念。じゃありんちゃん初詣どうする?」

「あー、起きてたら行きたい、かも」

去年は行く気満々だったけどまおが寝てしまい、起こすのもかわいそうかと諦めた。次の日は母さんが風邪をひいてしまい結局行けずじまいだった。今年はどうだろうか。
まだ眠っているまおを振り返り、今これだけ寝ていれば、夜は元気かも、とは思うけど…無理にとは言わない。母さんにそう告げてエプロンを巻いた。

「あ、ご飯炊けてると思うよ。セットしといた」

「わーありがとう!」

それから二人でキッチンに立ち、いろいろと一年の振り返りをして、夕食の準備が整ったところでまおがタイミング良く起きてくれた。今年最後の食事は、蕎麦と巻き寿司というアンバランスな組み合わせだったけど、どっちも美味しかった。

後片付けをしてお風呂に入って、僕らは三人で年末恒例の音楽番組を見て過ごした。でも問題はこの番組のような気もする。0時前に終わりってしまうからそこで気が抜けて一気に睡魔に襲われるのだ。今年も例年にならい、母さんはうとうとしている。こうなるとまおにも感染してしまい、二人して船をこぎだす。

「毛布いる?」

「んー」

「持ってくるから待ってて」

あ、こうしてる間に日付変わっちゃうかな。
二階から母さんの毛布を持ってきて、暖房の温度を少し下げた。去年は暖房をつけっぱなしで布団も被らないで寝たせいで風邪をひいたのだ。ついでに充電器に繋いでいた携帯も持ってきたけれど、志乃からの連絡はなかった。

「温度少し下げたけど、寒くない?」

「んー…へいき〜」

電気カーペットに横になり、まおはもうすやすやと寝てしまっている。昼寝なんてしていなかったようだと思いつつ、でもいつもなら完全に寝ている時間だ。むしろこれが普通かもしれないなと納得する。
日付が変わるまでのカウントダウンをしてくれる番組にチャンネルを変え、ついでに音も少し小さくする。そのまま手にしていた携帯で着信履歴の一番上にあった名前を選択し、発信ボタンを押した。

「……」

…出ない。

「あ、もうちょっとだ」

留守番電話に接続されてしまった携帯をテーブルに置き、若干寒さを感じた体にパーカーを羽織っる。画面の隅にあったカウントダウンの表示が大きくなり、あと三分で今年が終わってしまうのだと急に胸が高鳴った。その瞬間テーブルに投げ出した携帯が震え、志乃からの着信を知らせた。

「あ、もしもし?」

「りんちゃん!ごめんね、電話」

「あーううん、忙しかった?」

「今は、大丈夫」

「……もしかして、疲れてる?息切れすごいけど」

「平気!それより、外出て!」

「なんで?」

「星すごいよ!」

「星?」

この寒い中外で電話しているのか、この男前は。言いたいことや聞きたいことは他にもあるけど、今は良いや。もう少しで日付が変わるし、だから先に今年もよろしくを言いたい。
耳に携帯をつけたままリビングの窓を見たけれど、ガラスに自分が映って良く見えない。見えないなと呟けば「外出て外!」と急かされ、言われるまま玄関へ向かいドアノブを握った。



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