「えー!志乃くんの彼女って年上じゃないんだ」

「俺一言もそんなこと言ってないのにね 」

「でもほら、ばれたら迷惑かかる、みたいなこと言ってなかった?あれって年上のお姉さんだから、って意味なんだと思って」

「あはは、違うよ。俺は全然堂々としてたいけど、それはできないこともあるってだけ」

「あー…まあ志乃くんくらいモテる人だったら彼女さんも嫌かもね。周りからの敵視すごそうだし」

そういう意味ではないけれど。いやもちろん、それもあるけれど。
再び谷口くんの家にお邪魔して、しばらくすると遊び疲れた子供たちはお昼寝タイムに入ってしまい、賑やかだったリビングは信じられないほど静かになった。その中でその話をふった三崎さんもすごいけど、涼しい顔で受け答えする志乃にも脱帽だ。

「だから訂正してないんだ、納得。年上のお姉さんって勘違いしてくれてればばれないもんね。学校の中とか特にノーマークになるし」

「女子って極端だよな。なんでそこまで話が飛躍するわけ?もしかしたら三年の先輩かもしれねえだろ」

「あはは、確かに」

「うそ、それは否定しないんだ、じゃあノーマークじゃだめだね」

彼氏である高坂くんの前で…いやその高坂くんまで話に参加してしまっては誰も三崎さんを止められない。僕としては一刻も早く話を切り上げてほしいんだけど。事情を知っている谷口くんに至ってはにやにやと志乃と僕を交互に眺めているだけで助けてくれそうにない。

「でもさ、志乃くんが皆の前で手は出すなよ!みたいなこと言えば誰も何も言わない気がするな〜」

「そんな恥ずかしいことするのは漫画とかドラマだけだっつの」

「えーわたしだったら嬉しいけどなあ」

「いや俺は絶対やらねーよ」

「分かってる。志乃くんに言われたらって話だもん、期待してない」

「俺もそんな男前なことできないよ」

いや、志乃ならやりかねない。と思っているのは僕だけじゃなく、恐らく目の前の谷口くんも穏やかな目の向こうで思っていそうだった。

「でも三崎さん、このことは秘密にしといて」

「そうだよね、分かった努力する」

「女子ってこういう話よそでペラペラ喋るから気をつけろよ。志乃もあんま腹割って話してると痛い目見るぞ」

「失礼なこと言わないでよー。絶対言わないから安心して」

高坂くんと三崎さんって普段こんな感じなのかなとか、そんなのんきなことも考えられないくらい僕は恥ずかしさでいっぱいだと言うのに…志乃はあっけらかんと付き合ってる人のことが大好きだとかここが可愛いとか口にしていて。いつからそんなに饒舌になったのかと問いたいくらいだった。

「うん、お願い」

「志乃、何か良いことあった?」

「え?なんで」

「何か今日機嫌良くね」

「そうかな、どうだろう」

「…ま、音羽といるときはいつもこんな感じだけどなー」

「ちょ、谷口くんまで…」

「それは言えてる。仲良しだもんね音羽くんと」

「仲良しだよー。ね、りんちゃん」

「…」

「無視されてんじゃん」

高坂くんと三崎さんが同じタイミングで笑い、それを谷口くんがちゃかしてまた笑った。こんな時間を過ごすのはひどく久しぶりだ。
テーブルの下、膝の上でもて余していた手をすぐ隣に座る志乃の膝に移動させ、とんとんとそこを指先で叩く。するとすぐに手が降りてきて、やんわりと握られた。前にいる三人には見えていない僕らの距離が、いけないことをしているみたいでドキドキした。
自分から仕掛けたものの、恥ずかしさに負けてすぐに手を引っ込めたけれど、それからしばらくテーブルの下で志乃の手と格闘することになってしまった。

そんな調子で“クリスマスパーティー”は楽しく幕を閉じ、起きたもののまだうとうとしていたまおをおんぶして僕らは自宅に戻った。


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