「りんが可愛くて、俺夢中になっちゃって…だから、りんちゃんも一緒に気持ち良くなること、したい」

「……」

なんで電気つけたの。
こんな顔、見られたくないのに。と、自分のことを思うより、志乃の顔を見る方がダメだった。本当に辛そうに眉を下げて、唇を震わせて。泣きたいのはこっちだ。恥ずかしくて今すぐ滅びたいのは、僕の方なのに。

「ばか、ばか遥」

「ごめん…」

「なんで、そんなに大事にするわけ」

「当たり前じゃん、だって大事だもん」

「そうじゃなくて…」

恥ずかしい、けど…

「…痛かったけど、ちゃんと、気持ち良かったよ。遥と、繋がってるって思ったら、嬉しかった」

「りんちゃん…」

「でも、遥あれ以来しようとしないし、もしかしてもうしたくないのかなって、思うでしょ」

「ち、違う違う違う」

男前がこんなに動揺するなんて、誰も想像しないだろうな。動揺しても男前だけど、やっぱりよく見えはしない。明るいところで眼鏡なりコンタクトなりをつけて、しっかり見てみたい。直視なんて出来ないだろうけど。

「違うよ、だってあの日から俺、りんちゃんのこと今まで以上に可愛くて仕方ないし。正直いつでもムラムラしちゃうし」

「っむ、」

ゆっくり、志乃の手が僕の頬を撫でて、そのまま後頭部へまわった。軽く持ち上げられるように力を入れられ、くっと顎があがる。

「な、に」

「したい、けど、やっぱり今はダメ」

ダメだと言いながら、落とされたキスはひどく熱いものだった。

「っ、」

「帰ったら、うち…来てくれる?」

「へ、うん、いいよ」

この修学旅行から戻ればすぐに冬休みにはいる。その休みに、ということだろう。そう察しつつ、“帰ったら”というフレーズにあっ、と思うことがあって。僕はもう一度キスをしようと顔を下げてきた志乃を止めた。

「りんちゃん?」

「あの、遥」

「なに?」

「…帰ったら、言おうと思うんだ」

顔、近い。
今、僕はどんな顔してるんだろう…

「母さんに、遥と付き合ってるって」

「え」

…沈黙が痛い。目を瞑ろうとしたら、また顎をあげられた。

「ダメ、俺も、一緒に話すから、一人で話さないで」

「一緒にって…」

「俺が言う。りんのお母さんに、お付き合いしてますって」

「いや、僕が言うから」

「なんで〜」

結構重いことを言ったはずなのに、志乃はもういつもの調子に戻って、お預けを食らっていたキスをしてもいいかと尋ねてきた。返事の代わりに目を伏せると、すぐに唇が重なった。そのまま耳や首にもたくさんキスされて、僕もたくさんそれに答えた。
隣の部屋には友達がいる、明日になればまた顔をあわせて最終日だねと言い合うんだろう。それなのに僕らは、いけないことをしているみたいで…けれど一度してしまったキスはもう、後には引けなくて。
眠りについたのは、それからしばらくしてだった。

『ピピ、ピピ…』

「んー…」

「っ、重…」

朝、予定通り携帯のアラームが鳴り、先に目を覚ましたのは僕だった。志乃の腕にガッチリホールドされていて、携帯に手が届かない。

「うるさ…も、遥、起きて」

その間にもビービーと音量をあげていくアラームに、ようやく志乃も「うるさい」と言って目を開いた。

「りんちゃんだあ」

「おはよう、ちょっと…離して」

「え〜」

もぞもぞと布団から這い出てアラームを止めると、すぐに志乃に引き戻されて暖かい布団にくるまれた。

「おはよー、りん」

「うん、おはよう」

「すごい。起きてすぐりんちゃんがこんなに近くにいるって、すごいね」

「すごい?」

「すごいよ!すごい幸せ!もう一回する」

むぎゅっと抱き付いてきたかと思えば、目を閉じてすぐにまた目を開けてへらりと笑う。一体どんな遊びだ。寝起きの、視点の定まらないような目で舌足らずな声で。それが可愛くて擦り寄ると、「起きたくないね」とちょっと熱っぽく言われた。

「よし、起きて」

「え〜」

「ほら、顔洗って着替えて」

「もうちょっとだけ」

そんな志乃に負けて、ベッドの中でぎゅうぎゅうしていたら部屋のインターホンが鳴って、「おーい飯行こうぜー」とドアを叩かれた。

「起きないとね」

「……」

結局、荷物をまとめてホテルを出るギリギリまで何度も志乃とキスをした。ほんとに、思い出すのが嫌なくらい。ただでさえ恥ずかしいのに、背徳感のようなものを感じた自分には頭を抱えたくなる。
いつと違う朝に、なんとなく自分が少しだけ成長した気がして気恥ずかしかった。


─ to be continue ..




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