「終わり?」

「うん、終わり。もういいよ」

「気持ちよかった〜」

「っ、ちょ…」

僕の足元に座り込んでいた志乃はご機嫌で僕を見上げて、腰元にむぎゅっとしがみついてきた。

「りんちゃんだあ」

「なに、どうしたの」

「なんでもないよ、りんちゃんだなあって」

ぐりぐりとお腹に顔を擦り付けてくるところを見ると、本当に犬みたいだなと思う。可愛いなと、照明に照らされて綺麗に光紙を撫でてやれば、更に犬っぽく擦り寄ってくる。これ、尻尾があったら今すごいんだろうなとか、一人で想像して口元が緩んだところを見られ「なに笑ってるの」と言われてしまった。

「いや、遥だなあって」

「なにそれ」

自分も言ったくせに、と言い返したら口を尖らせた男前が膝立ちになって顔が近づいた。あ、キスだ、と思ったときにはもう顎を掴まれていて。

「ん、」

「柔らかい」

一瞬唇が重なり、すぐに離れてから次に触れたのは志乃の指だった。思わず瞑った目を開けると、すぐそこにいつも通りの志乃の顔。絡んでしまった視線を逸らせないまま、「りんちゃんからもして」という志乃の甘えに答えた。

「ふ、ん…」

軽く唇を押し付けて離れようとすると、そこをやわやわと食まれて舌先に口を開けろと促された。

「はるか、」

「もうちょっと」

「あ、待っ…」

お世辞にも大きいとは言えないソファーに、志乃の手によって押し倒された僕は、けれど抵抗も出来ずにどこかに行ってしまいそうな理性を必死に掴んでいた。お風呂上がりの温まった体が酷く熱くて、でも心地よくて。知らないシャンプーだとかボディソープの匂いがしてくるのに、それでも志乃の匂いがしてくらくらする。

「眼鏡、とっていい?」

「いい、けど…でも、」

「こんなに近くでも見えない?」

見える、と答える代わりに眼鏡に手をかけた。けれどその手をソファーに縫い付けられ、眼鏡は志乃の手が持っていってしまった。カシャンと小さく響いた安っぽい音に、テーブルに置かれたんだなと察しする。

「は、っんう…」

「りんちゃん、ん、」

滲む視界でなんとか志乃を捉え、覆い被さる体に手をまわす。ほんとに、熱い。

「りんちゃん、寝よっか」

「へ、うわっ、」

前触れもなくそう溢した志乃はむくっと起き上がってテレビを消すと、僕を抱き上げてベッドに転がした。これは…と、心臓が大きく跳ねた。テレビからの音が消え、室内は一気に静になる。枕元の電気のみがついた空間は今が修学旅行中であることを忘れさせるほど妙に、妖しく光っている。

「遥、」

「りんちゃん、同じベッドで寝てもいーい?」

志乃の顔がはわかる、でも、その表情ははっきりとは分からない。ずるいな志乃には僕の顔がちゃんと見えているだろうに。

「いいよ」

「わーい、お邪魔します」

男二人で寝るには少し狭い気がするけど、それをあまり感じないのは体が密着しているからだろう。後ろから僕を抱き締めた志乃の体温で、僕までぽかぽかする。このまま目を閉じていれば簡単に眠れそうだった。

「明日、何時に起きる?」

「一応七時半にアラームはセットしたよ」

「分かった。じゃあ、おやすみ」

「、おや、すみ…」

あ、れ…
枕元の照明も消え、これは完全に寝る体勢じゃないかと思った自分が恥ずかしい。当たり前じゃないか、寝るために布団に入ったんだから。いや、でも…

「遥」

「なあに」

「いや、あの…近くないかな」

「嫌?」

「そういうことじゃない、けど」

こういうのって、どうしたらいいんだろう。この雰囲気は、つまりそういうことをする雰囲気、じゃないんだろうか。僕が一人期待して不安になってるとか、そういうことはおいといて。だって、腰に、志乃のが…



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