人生初の沖縄は、僕には勿体なさ過ぎるくらい楽しかった。一夜目の枕投げも、二夜目のベッドの取り合いも。退屈なはずの講演を聞くのも、博物館の見学も、全部。三日目は自由行動で、グループで計画した場所を周り、最後に有名な水族館で全員が集合した。

「すごいねー!一面青!!」

「綺麗だね」

床から天井までのこの水槽というかガラスは、どんな構造でどれだけ安全なのかとか、一瞬考えはしたけれどそんなことどうでもよくなるくらいに綺麗で目を奪われた。ああ、まおにも見せてあげたいなと、この三日間で思った場面はいくつもあったけれど…これが一番だ。間違いなく。
青く透き通った水も、魚も全部、本当に綺麗だった。
それは志乃がこっそり手を重ねたことに気付きつつも、振り払うことを忘れてしまうほど。そして「写真撮って康太に見せてやろーっと」と谷口くんまで楽しそうに言うほどだった。

「俺まおちゃんにサメのぬいぐるみ買ってくね」

「なんでサメなの」

「え、可愛いよ?ほら」

凶悪そうな目付きなのに、確かに可愛い。見た目より柔らかいぬいぐるみを頬の横に掲げて、「ね」と満面の笑みを浮かべた志乃に胸がざわついた。みんな見てるのにな、志乃のこと…と。こんなに無邪気に笑われたら、一発で落ちてしまう。

「どうかした?」

「なんでもない。僕こっちのジュゴンのぬいぐるみとビーズのブレスレットにする」

「音羽買いすぎだろ、まおちゃんにばっかり。自分の土産かったの?」

「え?あ、うん、買った。と思う」

「ほんとかよ。てか、せっかく修学旅行なのに、音羽みんなに気遣いすぎだからな」

高坂くんが少し乱暴に僕の頭を撫で回しながら、谷口くんと交互に旅館でみんなの布団畳んだり、食べ終えた食器寄せたり、部屋の忘れものチェックしたりと溢した。

「ごめん、お節介?」

「いや、そういうわけじゃないけど。自分の家じゃねえんだし、もっと寛いで良いんじゃねえの」

「そっか…」

普段まおの面倒を見ているからか、もう体に染み付いている習慣だ。そうか、これがお節介なのか。

「ま、今日は最後の夜だしゆっくり休めよ」

「、うん、ありがとう」

「俺も音羽と同じ部屋がよかったなあ」

「ダメダメ。りんちゃんは俺と二人なんだから」

「分かってるって」

谷口くんは、僕と志乃のことを知ってからも変わらず接してくれ、態度も変わらない。こういうのって、周りに知られたら居心地が悪くなるのだろうかと、漠然と思っていたから正直拍子抜けしてしまった。もちろん、谷口くんがたまたま例外なだけかもしれないけど。そういう人がいるというだけで、なんだか嬉しい。

「喧嘩しないでよ」

「しないもん」

「はいはい、ほらそろそろ時間だから出よう」

むすりと頬を膨らませた志乃の腕を引いて外に出ると、すでに半数くらいが それぞれのクラスのバスに乗り込んでいた。これに乗り、三日目のホテルへ行く。今夜は志乃と二人きり。なんだかんだ、志乃と二人きりになるというきとはほとんどなく、一緒に寝ることに特に何も思わなかったけど… そうか、二人きりの夜…他の誰もいない部屋で、志乃と二人。そう思うと急に緊張してしまい、志乃の顔を見られなくなってしまった。

「今日の夜はフレンチのコース料理だって」

「えっ、まじで。なんでいきなりそんな贅沢なわけ」

「他に金使うところ無かったんだろ」

「じゃあそのまま積み立てた余りを小遣いにしてくれよ」

「俺に言うな」

賑やかなバスの中で、志乃は相変わらずブレザーを膝掛けにしてその下でこっそり僕の手を掴んでいた。バス移動の間はほとんど手を繋いでいた気がする。車内は空調管理されていて快適だし、上着を脱ぐのも不自然ではないけれど。
やわやわと甲を撫でられたり指を絡められたりする度、一人肩を揺らしてしまうのは抑えられなかった。

「う、わ…」

「まじでフレンチ」

「俺テーブルマナーとか分かんない」

ホテルについてそれぞれの部屋へ荷物を置き、すぐに食事だからと大ホールのへ移動した。そこで出された料理は、バスの中で聞いた話通りだった。

「僕もあんまり分かんない」

綺麗に並べられたナイフとフォーク、お品書き。真っ白なナプキン。運ばれてくる料理も綺麗で、たぶん美味しかった。何というか、食べ慣れていない分味の情報も乏しく正解がわからなかったのと、緊張で。

「志乃ってさ、行儀良いよな」

「え、そう?」

「俺も思ってた。普通に箸の使い方も食べ方も綺麗だしな」

イケメンでそれかよ、ずりーなと谷口くんは文句をたれながら豪快にパンを口に押し込んだ。

「じいちゃんが厳しかった、かも。そういうの」

「あーなるほどな」

メインの肉料理とデザートはちゃんと美味しさが分かって良かった。食べ終えてから先生からの話があり、それからそれぞれの部屋へ戻る指示が出た。



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