文化祭で更にクラスの雰囲気は変わり、今やほとんどのクラスメイトと普通に話せるようになった。そんな中で進む修学旅行の計画は、小中学生の頃とは少し気持ちも違った。というか楽しみ、の具合が違う。グループ行動もそうだし、部屋割りもそうだし、全部がわくわくした。そして、三泊四日の間は志乃とばいばい、をしないという事で…いや、変な意味ではなくて、単純に嬉しい。もちろん、その分まおには会えないのは耐えがたいのだけれど。そんなに長く離れたことはないし、相当心配だし寂しい。
「ういー、テストの結果表返すぞ〜」
ああ、寂しい。どうしよう、三日間夜だけでもずっとテレビ電話を繋げていたい。
「音羽〜」
「……、あ、はい」
でもそれは同室になった子に迷惑か。
「音羽、今回もありがとうな。本当に」
担任の微笑みに我にかえり、ああ、志乃のことか、と思ったけど今回は前ほど苦労はしなかった。一緒に勉強はしたけれど、聞いてみれば最近は帰ってから毎日少しずつ勉強していたらしい。そんな進歩があるのかと思うのと同時に、そんなこと全然知らなかったなと寂しくもなった。頭が悪い、という唯一とも言えるこの男前の弱点が…と。いや、努力するということで心配になったというのもある。いろいろと。
「わーい、赤点三つだけだ〜」
「お、すげーじゃん」
「再試大丈夫そう?」
「うん、りんちゃんありがとう。もうほんとりんちゃんのおかげだよ」
順位もまた少し上がっていたし、努力したんだろう。例えそれがテスト前のただの詰め込みだとしても、学生の成績として残るんだから損にはならない。
「すげーなー」
「すごいね」
「愛の力かあ」
「へ、」
順位表を嬉しそうに見つめる志乃を横目に、樹くんが真顔でそんなことを言った。
あれから、僕は相変わらず恥ずかしくて手を繋ぐだけでも緊張してしまうほど。それを嬉しそうに見る志乃に、また恥ずかしくなってしまう。更に恥ずかしいことを言えば、志乃の王子様が抜けなくて、というかもうとにかくあの泣き虫わんこがキラキラしていて困る。そんな事を真面目に思うくらいだ。
「愛の力、って…」
「あ?あー、そうだろ、完全に。いいことじゃん、付き合ってダメになる奴だっているんだし」
「…そ、うなの」
そういうことではない。僕と志乃の進展を察して、普通に受け入れられていることが何とも言えないほど恥ずかしいのだ。
「音羽も。なんか大人っぽくなったし」
「えっ」
赤い髪を揺らしながら手を翳した樹くんは、そのままそれを僕の頭に置こうとした。その寸前で志乃が思いきり樹くんの手を叩き落とし、触れることはなかったのだけど。
「ちょっと!りんに触んないでよ!!」
「触ってねーだろまだ」
「まだって触るつもりだったじゃん」
「うるせーな、器のちいせえ奴は嫌われるぞ」
「きらっ…うそ、りんちゃんそうなの?」
「え、いや、え?」
「そうなんだあ」
「えっ、泣か…」
「さっさと再試の勉強しろよ、この馬鹿が」
志乃ともっと前に出会っていたら樹くんみたいな親友になっていたかもしれない、と思ったけれど、流石にここまでは無理かもしれない。
「そうだよ、勉強しよう」
「むー…」
むすっとしながらも志乃はペンを握って、真面目にプリントを見つめた。
呆れ顔の樹くんと目があい、僕は誤魔化すように肩を竦めた。
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