「プリン作ってあるから、後で食べよう」
「うん」
「…あ、文化祭の写真印刷したんだけど、見る?」
「見たい!」
「持ってくるね」
プレゼントらしいプレゼントもないし、写真と写真たてくらいならすぐにあげられるかなと、そう思ってそれは用意した。志乃の部屋にはそういうのが増えていて、もういらないかもしれないけれど、それでも僕の気持ちとしてあげたいなと。
一人階段を上がって自室に入ると、机の上にきちんと準備しておいたそれが目に入る。まおが昨夜書いていた手紙も…おめでとうとだいすきという文字だけだけど…その横に並べてある。直接渡すと言っていたから、それは手には取らずに写真の束と写真たてを掴む。
「、あ…」
けれど数枚が落ち、それを拾おうとしてさらにまたひらりと落ちた写真。ちまちまとそれを拾っていたら階段の下から志乃が「りんちゃーん」と呼んだ
。
「ごめん、ちょっと落として」
「大丈夫ー?」
とんとんと、迷いなく上がってきた足音に顔を上げると、部屋の前で蹲るようにして写真を拾っていた僕に志乃の手が伸びてきた。
「転んだの?」
「あはは、転んでない。片手で掴みきれなくて」
「わっ、なにこれ恥ずかしい!」
「母さんがばっちり撮ってくれてた」
当日の写真係だった担任の先生がくれる写真は、きっともっと後になるだろう。その横で母さんがカメラを構えていたことを、志乃は気づいていなかったのか、本当に驚いたように目を見開き恥ずかしそうに項垂れた。まあ確かに、あの中でそんなことに気付く余裕がある方がすごいけど。
「なんで?良く撮れてるよ?」
「やだー」
「あはは、見てこれ。水波くんスカートのファスナーが壊れて…遥?どうしたの」
「りんちゃんと映ってるやつ無い」
「それは仕方ないよ、僕出てないし」
「……」
母さんからデータを貰った写真は主にステージの写真だ。それは当然のことなのに、志乃は本当に残念そうに肩を落とした。そのあと教室で僕の撮った写真はほとんど自分が映っていないし、それも仕方ない。
「あー!あった!」
「見て」と差し出されたそれは、体育館から教室へ移動する途中のもので。僕が志乃にお疲れ様と、声を掛けた瞬間のようなシーンだった。母さんこんなの撮ってたのか、知らなかったなと、印刷しながら思った事が蘇る。
「やりきったって顔してるね、この遥」
「うん。俺ちゃんとできてた?」
「できてた。かっこよかったよ。遥も頑張ってよかったでしょ?」
「……うん」
あんまりいいアングルではないそれをじっと見つめているから「それあげようか」と言えば、ぱっと顔を上げてありがとうなんて言うから逆に申し訳なくなった。
「あとね、これも。写真たてだけど…ほら、遥部屋に…」
「いいの?」
「えっ、うん」
「嬉しい。一生大事にする」
「えっ、そんな大層なものじゃないからやめてよ」
「これ、中に入れていい?」
「うん、それでいいの?」
「うん」
「この王子様感する奴の方がよくない?」
「自分の単品写真って飾るもんなの?」
「…飾らないか」
でしょ、と少々自慢げに笑って目を伏せた志乃は器用に写真を収めた。
「帰ったら飾る」
「そう」
「…ありがと、りんちゃん」
「どう、いたしまして」
ありがとうとおでこにむちゅっとキスをして、志乃はゆっくり立ち上がった。
「あ、まっ…」
「、りんちゃん?」
「いや、えっと…座って、もう一回」
うん?と首を傾げながらぺたりと腰を下ろした志乃は、不思議そうに「どうしたの」と僕の頭を撫でた。
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