文化祭二日目。特に出番があるわけでもないからと志乃と校内を回ったり、先生たちの合唱や勇姿のライブを体育館で鑑賞したりして過ごした。二日目は半日で終わるため、そのステージ発表終盤のそのライブにはほとんどの生徒が体育館に集まっていた。その後閉会式も速やかに執り行われ、各クラスごとに片付けや掃除をして解散、という流れで無事文化祭は終了した。
「いやー、みんなお疲れ〜。頑張ったのと一番笑いを取ったご褒美に先生から差し入れです」
「うわっ、肉まんじゃん」
「買いたてホヤホヤだけど、三件もコンビニ回ったから冷めてるのもあるかも」
僕らが片付けしてる間見かけないと思ったら…コンビニ行ってたのか。生徒がそんなことしたらこっぴどく叱られるというのに。自由な人だ。
「うける、肉まんばっかり買ってくるとか」
「絶対店員に肉まんってあだ名つけられてるよ」
「やめてよ、地味に傷つくから」
わいやわいやと帰りのホームルームを済ませ、僕は志乃と家路についた。秋らしい、オレンジ色の空を背ににこにこと話す志乃を見上げて、これのどこが格好悪いんだろうと、昨日の事が過った。いやまあ、見た目の話ではないんだろうけど。それは分かっているけど。
「りんちゃん?」
「え、あ、ごめん、何だったっけ」
「もお〜何考えてたの?俺以外の事だったら怒るよ」
「遥のことだから、大丈夫」
「へっ」
言ってから、とんでもなく恥ずかしいこと言ってしまったと気づき急速に顔が熱くなった。
「ちょっとりんちゃん、反則」
「え、ごめん」
「あー、早く明日にならないかなあ」
「あ、明日…どこか行く?行きたいところとか、欲しいものとか、したいこととかあんかある?」
「んー、やっぱりりんちゃんと一日くっついてたいから、側にいて」
「……分かった」
「あっ!!りんちゃんーん」
いつのにか保育園の門までたどり着いていた僕に、可愛い可愛い妹の声が響いた。
「まお、おかえり」
「ただいま!ぶんかさい、楽しかった?」
「楽しかったよ」
「まおも!」と、天使は昨昨日のことを保育園から家に着くまでずっと喋っていた。志乃の王子様がもう一度見たいと、何度も繰り返すから僕としては面白くなかったんだけど、確かにもう一度あの王子様は見たいかもしれない。
「はるちゃん、今日うちくる?」
「行ってもいいの?」
「きて!絵本読んで!」
「いいよ」
まおにしてみれば志乃が家に来てゆっくりしする、というのは久しぶりかもしれない。僕もそう思うけど、毎日顔を合わせて学校でも一緒に居ればそれも若干薄れる。にこにこと頷いた志乃に、まおもにこにこで、この二人が兄弟だったら相当だよな、と勝手なことを考えた。
なんとなく久しぶりに夕方をうちで過ごし、何時ものように僕が夕食の支度を始める頃に志乃は帰ると言って腰を上げた。
「えへへ、じゃあ明日」
「うん、気を付けてね」
ヘラりと笑いながら帰っていった志乃。まおと同じように何度もこちらを振り返っては手を振る姿はやっぱり荒れていた頃とは繋がらない。
「繋がらない、な」
だけど、志乃に言ったことは嘘じゃない。
今までの志乃があってこその今の志乃を、好きになったんだって。でも言葉じゃやっぱり足りなくて。
明日…、明日、明日。
頭の中で何度も何度も“明日”と考えて、それは眠りにつくまで消えてくれなかった。なんなら目を覚ましてすぐ、今日だ!なんて飛び起きてしまったし。志乃も今日で17歳か、おめでとうと電話した方がいいのか、メールを送った方がいいのか、ぐだぐだ考えながら着替えを済ませ朝食を用意した。そのくらいの時間になると、直接言えば良いじゃないか、会えるんだからと言う結論に至っていて。それもそうだ、きっとあと五分もしたら…と、そこで『ピンポン』とインターホンが鳴る。
このタイミング、と少し口が緩み、まだご飯を頬張るまおの頭を撫でてから玄関を開けた。
「おはよう」
「おはよ」
「おめでとう、誕生日」
「うん、ありがとう」
「はるちゃーん?」と、コップを両手で掴んでとてとてと走ってきたまおは、今日は志乃におめでとうを言うんだよといった僕の言葉通り「お誕生日おめでとう」と、満面の笑みを浮かべて発した。
「ありがとう」
いつも通りの、けれどいつもより浮き足だった朝。まおを保育園へ送っていき、志乃とスーパーに寄って買い物をしてから帰宅した。