「遥?」

「俺のこと、嫌いになんないで」

「はあ?なんでそうなるの」

大袈裟だと笑ったら、志乃は全然笑えないと言う様に下唇を噛んだ。

「なんか、思い出しちゃって」

「何を?」

「りん、同じクラスになってから俺が声かけた時怖がってたなとか、俺がくっつくの嫌がってたなとか」

それに関しては否定のしようがない。が、だからと言ってあえてはっきり肯定するのもこの場では間違いだと思い口をつぐんだ。

「いや、まあ、それはそれでいいんだけど…俺がしてきたことって、もう変えられないし…それをりんちゃんが嫌だって言ったら俺どうにもできないし…でも好きだし、今さら諦めるとか無理だし」

「ちょ、ちょっと待って。勝手に話広げすぎ」

たかが一人…いや何人か見かけたとしても…これは動揺しすぎだ。そりゃ今までそういうことがあっても、僕がその場に居なければ、こうやって目の当たりにしなければ、志乃もここまで動揺はしないんだろうけど。でも今それをどうこう言うことなんてない。

「だって俺はいつでも不安になるよ。副会長のこととか、あの女の子のこととか。りんが何にも無いよって言いきって、それで安心しても、またあとで思い出したら不安になるし、心配になるもん」

「女の子って…や、だからそうじゃなくて…」

「りんに呆れられないようにちゃんとしてたら良かったのにとか、なんであんなことしてたんだろうとか、後悔ばっかりで…その頃のことを思い出すと、本当にやり直したくなる。自分で自分が嫌になる」

「ほんと、ちょっと待って」

スラックスのポケット、携帯がぶるぶると振動した。なかなか止まらないそれに、ああ電話だと気付きつつも今は目の前のことが先で。

「落ち着いて、ね?何がそんなに不安なのか分かんないけど、大丈夫だから」

ずるっと、鼻をすする音が響いてこれでステージに立てるのかと、少し心配になった。でもそれよりまず言うべきことを言おうと、じっと志乃の目を見上げた。

「そりゃ、噂とか聞いて怖いと思ってたし、実際に近寄られてびびっちゃったけど、でもそれはそれ。それに僕だって、もっと早く出会えてたらとか思うよ。遥が一番辛かったときに側に居たかったなとか、でもそれじゃ遥は僕を好きになってくれなかったかもしれないし、僕も遥を好きにならなかったかもしれないでしょ」

樹くんみたいに、心の底から心配する親友になっていたかもしれないし、それは分からないから。

「いろんなこと経験して、今の遥があるんだから、それをひっくるめて好きになった僕を否定しないで欲しいなって思うんだ」

「っ、」

「大丈夫だよ、もしまた遥が同じように荒れたら僕が怒るし、辛かったら側にいるし」

「…」

「それじゃだめ?足りない?」

「っ、ううん、嬉しい。すごく」

「ん、じゃあ戻ろう。みんな待ってるよ」

諦めたように止まる振動も、またすぐに震え出す。谷口くんかな、という予想は見事正解で、その着信画面を志乃に向ければ困ったように頷いてくれた。

「あ、待って」

「ん?」

「りんちゃん、あの…」

「どうしたの」

「俺、も。りんが自分なんかっていうの、嫌」

「……ん、」

「もうどうしよう、好きすぎて泣ける。どうしたらいいの」

そのもどかしさを、僕も感じている。
こうやって同じ気持ちを同じときに抱いて、もっと寄り添いたいと願って、ひとつになるんだろう。今すごく、志乃に触れたい。でも今はだめだ。みんな待ってるし、何より学校だし保健室だし。

「僕も」

「ちゅーしたいけど、我慢する」

「うん」

へへ、と笑った志乃の腕を引いて保健室を出ると、ちょうど先生が戻ってきたところで慌てて僕らは階段をかけ上がった。教室に滑り込むと、みんなすでに練習を始めていて僕も志乃も遅いよーとブーイングをくらってしまった。

「ま、いいや。音羽も志乃も昼食べてないなら今のうちに食べといた方がいいぞ」

「うん」

「うっし、なら練習すっか」

それぞれお昼をとり、役者組は最後の練習を始めた。その傍らで周りの声に耳を傾けると「校門に先生達居るのに、なんかやたら柄の悪いやつ入ってなかった?」という、なんとも志乃が聞いたら気にしそうな言葉が聞こえてきた。

「俺も見たー」

「いやでも、女の子も結構来てるしテンションはあがる」

そりゃ、志乃は有名人だし、知り合いが来ないなんてことはないはず。気にしすぎだってことに気づいてないところが志乃らしいけど、本当に気にしすぎだ。そう、気にしすぎ、なんだ。



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