「誰かな〜」

「わっ、びっくりした」

「怪しい」

「へ?いや、母さんだよ」

「なんだあ」と笑いながら、金色の折り紙を調達してきてくれた田倉さんが僕の前に座った。一緒に戻ってきた三崎さんもその隣に座り、王冠型にした針金をじっと見つめた。

「仲良しだね」

「そう、かな」

「あっ、これ。あげる」

「えっ」

「昨日もらっちゃったから。まおちゃんに使ってあげて」

田倉さんはそう言うと、ピンク色に可愛らしい猫のキャラクターのイラストがついた絆創膏をくれた。5枚綴りになったそれを「全部可愛いから」と。

「そんなつもりじゃなかったのに」

「いいからいいから」

「……ありがとう。あ、まお劇見に来るかもしれないんだ」

「ほんと?楽しみだね」

「うん」

「ね、こんな感じでいいかな?冠」

「え、すごーい」

今日は迎えに行ったらまずそれを言おうと決めて、針金の塊に折り紙を張り付けていた三崎さんを見た。その手元には微妙に形の悪くなった王冠が3分の1ほど金色を纏って佇んでいた。

「……」

「え、変?音羽先生」

「っううん、そんなことない。すごい」

でも…

「こんなに綺麗なのに、志乃金髪だからあんまり目立たなかったら勿体ないなって」

「……志乃くんイケメンすぎて何色にしても目立たないかも」


「それもそうか」と、素直にうんうんと頷いてから、そういえば志乃が髪を黒くしていた夏が懐かしいなとふと思った。思って、前で台詞の練習をしている志乃を見たら、予想外に視線がぶつかってしまった。

「っ、」

へらりと笑った志乃に、れんしゅう、と口パクで伝えると指でオッケーサインをして目を逸らした。可愛い。何が、とは言えないけど…あー、かわいいと無意識に。無性にそれを本人に伝えたいなと思った。

「ほんとイケメンだもんね〜」

「ね、前よりまるくなったから余計に」

「最初の頃はすごい怖かったもんね。今でも怖いときあるけど、レベルが違うって言うか」

「ね。今や王子様だもん」

王子様…その王子様と付き合ってるんだな、自分。ハグをしてキスをして、見つめ合って好きだと言い合って。誰も知らないそれを、大事に胸にしまう僕はなかなかに恥ずかしい奴かもしれない。つりあっていない、とはまさに僕と志乃のことだというのが分かっていても、いや分かっているから余計に言えないのはあるけれど。
そんなことを頭の隅で考えながら僕も視線を手元に戻し、着々と仕上がる王冠を見つめた。それが完成する頃には、大道具も小道具も仕事を終え、衣装も完璧になった。肩章は結局テープで固定することに落ち着いた。

文化祭前、体育館での最終練習では、劇自体も完成していて、自分はこれに携わったのかと思うと誇らしくなった。こんなこと初めてで、家でも無意識に鼻歌なんか歌ってしまっていた。



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