七人の美女、一人目はお馬鹿。二人目は不良。三人目はオタク。四人目は筋肉。五人目はギャル。六人目はナルシスト。七人目は変態。

「あーん、王子様、どうかこのわたくしをお嫁にもらってはいただけませんか」

「……」

「……」

「志乃、セリフ」

「え、」

懸念していた志乃のセリフ覚えは案の定絶望的だった。主役がこれじゃまずいのは言うまでもないけれど、それでも志乃の王子様ぶりは完璧だった。見た目だけは文句なしに王子様で、セットされた金髪も王子様仕様のシャツも、とにかく格好よかった。いや、決して僕の個人的な見解ではない。みんな、本当にみんなが、そう思っている。はずだ。

「まあいいや、流しで雰囲気掴も」

「ごめん」

「いいよいいよ!」

そうでなければ、ここまで出来ないことを怒るはずだ。男前って生きやすくて羨ましいと皮肉を込めて志乃を見ると、しゅんと耳を垂らした犬みたいな顔をしていた。

「あ、音羽ー」

「、うん、なに?」

「音羽さ、ミシンとか出来る?」

「ミシン?少しなら」

「まじで?」

段ボールを抱えた谷口くんは、その隙間から顔を出して続けた。

「ちょっと女子がお手上げ状態でさ。手伝える?」

「うん、いいよ。僕でよければ」

「助かる!被服室で三崎たちやってるから、頼める?」

「いいよ」

「さんきゅ!俺もあとから行くから」

「分かった。行ってくるね」

最後にもう一度、志乃を見る為に教室の後ろを振り返ると、真剣な顔で紙を見つめていた。僕も何か力になれればなと、考えてみても練習に付き合う以外思い付かなかった。でも僕は関係ないし、合わせ練習をするなら本人同士の方がいいだろう。

「……」

寂しい、んだろうか。
いや、嬉しいと言うべきだ。樹くんの言葉を借りるなら、高校生らしい、ということで。合いそうにない視線を逸らして言われた通り被服室へ向かうと、確かに谷口くんの言葉通りもうすでにミシンに向かうクラスメイトはいなかった。

「あの、手伝えること、ある?」

「あー音羽くん」

「なに、ミシン使えるの?」

「少しなら」

「ちょっと見て、これなんだけど」

「あー、これ…は、」

僕も上手なわけではないけれど、少しくらいは貢献しようと頑張り、女の子に混ざってひたすら衣装をこしらえた。ホームルームの時間、休み時間。段々と志乃は僕の隣にいなくなり、放課後も居残りをするようになっていた。それでも朝だけは変わらず一緒に登校する。それだけでも、僕は嬉しかった。
本番一週間前になると午後の授業がなくなり、ホームルームという名目で準備時間に当てられた。その頃にはもう完全にクラスの団結力というか、結束力というか、そういうものが培われていて。気軽に声をかけられる、それはいまだに慣れないけれど、それでも楽しいと思った。

「音羽、そろそろ帰る?」

放課後高坂くんに肩を叩かれ、パッと顔をあげ時計を見ると、確かにもう出なければいけない時間だった。



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