「なに、ご機嫌じゃん」

「えっ?普通だよ」

「……あー、そ」

一度点呼をとってから再開された体育祭。お昼休憩の間志乃の事を探し回っていたらしい女の子達は、志乃を見つけるなりすごい勢いで群がっていた。そんな志乃と離れ、僕は彼がリレーで通過するコーナーのところに腰を下ろして場所を陣取った。そこで応援合戦、障害物競争と続く競技を眺めていると、横で樹くんが眠そうにあくびを漏らして何処かへ行ってしまった。
「トイレ」と呟いたのが聞こえた気がして、このタイミングでと聞き返したけれど返事はなかった。

「もうすぐなのに…」

「音羽っ!」

「っ、え?」

「わり、そんなびびんなよ」

ぼんやりと赤髪に巻かれた赤いハチマキを見つめていたら、ふいに肩を叩かれて大袈裟に体が震えた。

「あ、ごめん、びっくりして」

そこにいたのは同じクラスの高坂くんと谷口くんだった。高坂くんとは席が近くて挨拶くらいは交わすけれど、会話らしい会話はしたことがない。だからどうしたのかと首をかしげると、二人は目を見合わせて意を決したように口を開いた。

「打ち上げ、今日やるんだけど来ない?」

「へっ?」

「志乃も。クラスみんなに声かけてんだけど、どう?」

打ち上げ、とは。
誘われたことがない…いや、声はかけられても僕が参加しないことを見越しての義理の声かけならあったかもしれない。今のこれも、そうなのかもしれない…けど。

「って言っても、ファミレスだし、先生見回りとか来るかもしれないから早めに解散するつもりだけど」

「てかさ、音羽の妹保育園?だよな、連れてこればいいじゃん。俺弟連れてくよ」

「えっ?」

「年長と小一。今日だけ親居なくてさ、でも集まりたいし」

なんだその荒業、と思ったけれどそれ以上に谷口くんがまおの存在を知っていることに驚いた。

「俺の弟、音羽の妹と同じ保育園行ってんの。え、知らない?」

「えっ、ごめん、知らなかった」

「まー、歳違うしな〜宏太って言うんだけど」

「あ、」

こうたくん、知ってる。

「それ俺の弟。まおちゃんに宜しく言っといてよ」

知らなかった、あ、そうなんだ、へえ〜、と頭の中で忙しくその現実を受け止めていると、谷口くんがにこりと笑ってもう一度「まおちゃんも一緒に顔だけでも出しに来れないかな」と言ってくれた。

「ありがとう、聞いてみるね」

「うん。あ、連絡先とか知らないよな、今携帯ある?」

「、うん」

「俺かけるから番号言って」

あ、すごい、今連絡先交換してるんだ…
素直に嬉しいのと、驚きとか混じって知らない番号からの着信画面にドキドキした。友達なんて要らない、なんて思ったことはない。それでも僕には物心ついたときにはもう一番に優先したいものがあって。だから、周りから見たらたくさんの事を諦めたように見えていたんだと思う。

「それ俺の番号。登録してまた連絡ちょうだい」

「ん、分かった」

「でさ、志乃のことなんだけど。音羽から声かけれない?」

「俺らが聞いてもいいんだけど、やっぱちょっと怖いって言うか…いや、ほんと少しだけど」

「あはは、大丈夫だよ。怖くないよ」

最初より随分丸くなったとは思うけれど、と口ごもる二人に笑いながらそう言えば最強の不良扱いをされる人だったなと思ってまた笑えた。僕も最初はどんな仕打ちを受けるのかと思ったし、よく知らないで噂だけを聞いていたら軽々しく声なんてかけられないだろう。

「音羽ってさ」

「ん?」

「いや、もっと怖いのかと思ってた」

「え、僕が?」

「いやだってあの志乃と仲良いし、なんでかなーって。あと、一人でなんでもやっちゃうじゃん?困ってたら割と助けてくれるけどあんまり長々しゃべらないし。だからあんまり近づいいて欲しくないのかなって…」

「そんなつもりはないんだけど…」

「そういうの、面倒見が良いっつんだよ」

「っ、お、おおは…し」

意外な理由に首をかしげようとしたら、聞きなれた声と共に頭に手を置かれて撫でられた。トイレから戻ってきたらしい樹くんは二人が肩を揺らして驚いたことも気にせず、僕の隣に腰を下ろした。なるほど、樹くんが離れたのを見計らって僕に声をかけてくれたのか。なんとなく納得して、「志乃にも聞いてみるね」と返しておいた。
けれど、予想に反して二人はそそくさと離れてはいかず、そのまま僕と樹くんの横でリレーが始まるのを待っていた。


prev next
[ 166/306 ]

bkm


 haco

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -