「ごめん、抑えらんなくて」

「……」

「怒った?」

「……」

「絆創膏貼る?」

「絆創膏じゃ足りないよ」

「…ごめんなさい」

ほんと、犬なの?と、言いたくなるくらい肩を落とした志乃に、やっぱり怒る気にはならなかった。

「もういいから、そろそろ行こう」

「もうそんな時間?」

「うん、ほら」

幸い止まっていない掛け時計を指差すと、針は集合時間の10分前をさしていた。お弁当箱を教室に置きにいってからグラウンドへ向かえばちょうど良い時間になる。

「じゃあ、やっぱり最後にもう一回写真撮ろう」

素早く構えられた携帯が、カシャリと軽快に音をたてた。あっ、と間抜けな顔をしていたであろう僕はなすすべもなく肩を引き寄せられもう一枚写真におさめされた。

「あー、一緒に手繋いで走れて嬉しかったな〜」

「へっ、」

「さっき。りんちゃんは必死だったから気にしてないかもしれないけど、俺すごい嬉しかったんだよ」

「…そう言えば、なんで他の団のテントに居たの?」

「え?あ、えっと…」

「?」

「…先輩の集団に」

「絡まれたの?」

「いや、まあ、うーん。写真とか連絡先とか、なんかいろいろ…」

愚問だった。いやでも、久しぶりに怪我とか喧嘩とかの心配をした気がする。ここのところめっきりなくなったそれは、けれどなにかあればすぐに僕を不安にさせる。

「でも俺、付き合ってる子いるって断ったよ」

「え、」

「え?だから、付き合ってる子いるから、連絡先とかは交換したくないって」

「言ったの?」

「うん。ダメだった?」

「……いや、うん。ダメじゃない、」

嬉しい、かも。そりゃあ、まさかそれが僕だなんて誰も思わないだろうけど。素直に嬉しい。

「…あ、ほら、ほんとそろそろ行こう」

「ん、」

でも嬉しい反面、不安にもなる。
相手が誰とかは言ってないようだけど…それはそれで、誰といつから付き合ってるのかとか、その子は志乃遥にふさわしい子なのかとか、いろいろ探りをいれるのではないだろうか。
僕も知ってるんじゃないのと問いただされたっておかしくない。学校じゃ僕が一番志乃と長く一緒にいるし。でも聞かれても困る。「さあ、わからない」と上手く隠し通す事ができても不安は拭いきれない。

「りん、リレー応援してね」

「、うん」

午後の部、僕の出番はない。
よく見えるところに居座ってその姿を見ようと決めた自分が、なんだか保護者みたいでおかしかった。



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