貴重品を配ってからそれぞれお昼をとりに校内へ戻ると、購買はすぐに人で溢れた。お弁当持ってきて良かったと素直に思いつつも、一番は志乃が喜んでくれたのが嬉しかった。旧校舎の生徒会室は体育祭の賑やかさも喧騒もなく、差し込む光がポカポカと暖かくて、お昼をとるにはちょうど良かった。

「わわ!すごいすごい!全部美味しそう!唐揚げ食べていーい?」

「どうぞ」

「美味しい!」

「良かった」

「これも!めちゃめちゃ美味しい!」

頑張って作ったかいがあったと思ったのも束の間、いつもの倍以上ある量のお弁当はぺろりと志乃の胃袋に収まった。ふにゃふにゃの顔で何度も何度も「ありがとう、ごちそうさま、美味しかった」と言ってくれる彼に、こういう人と結婚一緒になれたらすごく幸せだろうなと思った。思って、恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「あ、りんちゃん、写真撮ろう」

「ふ、あ、うん」

「なに?やだ?」

「あ、ううん、ボーッとしてただけ」

ポチポチと携帯を操作した志乃は内側のカメラに自分が映ることを確認してから、隣にいた僕の腰に手を回して引き寄せた。

「っ、」

「りん、ここ、ちゃんと見て」

「んん、」

あ、めっちゃ髪の毛変だ。
志乃の携帯の画面に映った自分にそう思い、軽く直してからじっとカメラを見つめた。

「もっと笑ってー」

「わらっ…」

あ、夏休み以来だ、とふと思い出したのと同時にシャッター音が響いた。

「これ待受にしよー」

「っ、だ、だめだめ、それはやめよ」

「なんで?」

誰かに見られたらどうするんだと言えば「むしろ見せびらかしたい」と返ってきて脱力してしまった。体操着にハチマキを巻いて、青春臭が尋常じゃないだけでも恥ずかしいのに。でも、だけど、嬉しい。素直に。

「りんちゃんもう一枚」

「うん、え、ちょ、近い」

「ちゅー」

「そ、っれは」

さすがに無理だと胸を押したら、志乃はあっさり離れてにこりと笑った。あ、男の顔だ、と分かったけれど逃げることが出来ず。携帯をテーブルにおいた志乃は、もう一度僕に顔を寄せて「チューしちゃダメなの?」なんて問うてきた。少し眉を下げて、なんかもう、あざとい。僕がこの顔に弱いって、知っているんじゃないかと疑いたくなるくらい。

「唐揚げ、食べたよ」

「俺も食べた。美味しかった」

「そ、うじゃなくて…ほら、学校…」

「…わかった。我慢する」

そう言いながらも、体は離れていかない。

「志乃?」

「はるか」

「あ、」

ものすごくナチュラルに出た声に、志乃が不満そうに口を尖らせた。今日は二人きりになるタイミングが、“遥”と呼ぶタイミングがなかなかなくて、ぽろりと出てしまった。

「やっぱりしちゃダメ?」

それが気にくわかったのかなんなのか、甘えたように言う声に体が痺れた。その所為にしても、そういえば最近あまりしてないなと、思ってしまった自分が恥ずかしい。それを悟られたくなくて視線を落とした。言うほどでもないとわかっているのに、そう思ってしまったから。

「りんが嫌ならしないよ」

太陽の匂いと土の匂いに視界がくらりと揺れる。行事ごとで盛り上がる男女がいるのって、こういう普段はない感覚とか、気分の高まりの所為なんだろうか。

「……だから、嫌じゃない…よ」

「…してもい?」

恥ずかしすぎて頷くしかできない僕に、志乃の顔がさらに寄せられた。だから嫌じゃないってば、なんて。まるで逆ギレじゃないか。聞かなくて良いと言っているのに聞いてくるから、とかそんなのもう言い訳にもならないだろう。だって僕もしたいって、きっと顔に出ていたと思うから。

「かわい、りん」

やんわりと、何度も重ねられる唇はいつもより少しだけ乾いていて。うっすら開いた目で見えたのは、同じように目を閉じきっていない志乃の目。この至近距離で交わってしまった視線に、思わず体が強張った。

「わ、ちょ…嘘、遥っ」

「ん、」

「だめ、だめだって…それ、は…」

離れた唇が、今度は耳たぶをやわやわと噛み、大きな手が体操着をわって僕の下腹部を撫でた。

「はるか、」

「きもちー」

「えっ、柔らかい?」

「んー」

確かに最近、少し体重が増えた。まめに計っているわけではないけれど、なんだか太った気がして体重計に乗ったのが一週間ほど前。何太りだと思いながらも、最近まおがもりもりご飯を食べてくれて、それに比例して作る量も増えたのかもしれないと気づいた。体重が増えるくらい、そんなに気にはしない。けれど…

「どうしよう、ぽっちゃり?」

「んーん、全然。細いくらい。でも気持ち良い」

割れてなどいない腹筋を、それでも線に沿って指でなぞるような手つきがなんだかもう、いやらしくて、困る。

「きもちい?」

「ん、くすぐったい、」

「それだけ?」

耳たぶを甘噛みしながら発せられる言葉は熱を帯びていて、僕の口からは情けない声が漏れた。

「…もうだめ、おしまい」

「なんで、いやだった?ごめん」

「や、だから…い、やとかじゃなくて…恥ずかしい、から…お願い、もうおしまい」

「……わかった。でももう一回だけ」

「っ!!」

僕に覆い被さっていた志乃の体は、一旦離れまた近づいた。撫で回されたお腹を派手に露出され、少し下へずらされたハーフパンツ。おへその辺りに唇を寄せた志乃は、そのままそこに思いきり吸い付いた。

「うそ、やめ…!」

「ん、」

「遥っ、離し─」

「らめ」

「っ…あ」

これはダメだと思ったときには手遅れで、満足げに唇を舐めながら顔をあげた志乃に怒る気にもなれなかった。おへその少し下に付けられたそれは今まで見たこともないほど真っ赤で痛々しく見える。もちろん痛くはないのだけれど、誰かに見られたら確実に心配されそうなくらいには真っ赤だ。僕自身見るに耐えなくて、無理矢理ハーフパンツに体操着の裾を押し込んだ。


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