どうしよう、困った。
そんな焦りの中、一番手でゴールしたのは樹くんだった。「人体模型」と、クールな声で読み上げた樹くんは小脇に生物室の住人、人体模型の田島ジュニアくんを抱えていた。あの不良の外見に人体模型って、と一気に笑いが沸く中、生物の田島先生は顔面蒼白で、マイクから離れた彼を見つめていた。そんなシュールな場面に口元が少し緩み、樹くんに見られてたらデコピンでもされそうだなと思った。
「あっ、金髪探してる子〜」
「へっ?あ、はい、僕です」
「あそこ!いたよ〜」
知らない先輩っぽい人が親切にあそこあそこと指を指してくれた先、確かに金髪頭が見えた。
「ありがとうございます」
だけど、なんとかその人物を確認すると、もうどうにも居たたまれない気持ちになった。
「りんちゃん!!」
志乃を避けてこっちに来たんだけどと思う反面、もうなんでもいいから早くゴールしてしまいたいと気持ちがあせる。でも向こうで女の子が金髪を…たぶん志乃を…探してると思うと気が引ける。それなのに…志乃はのんびりした声色で「りんちゃーん。もう終わった?次空いてるよね?一緒にトイレいこ」と、僕に駆け寄ってきた。
「まだ、終わってない」
「えっ、そうなの?なに探してるの?」
「……」
「?」
もう、いいだろうか。他にも金髪の人はいるらしいし、僕が痛い目で見られるのは今に限ったことじゃない。そう決心して志乃の手首をつかみ、トラックに侵入すると更に視線が集まり騒がしくなった。
結局、同じお題を探していた子は金髪のロングヘアの女の先輩と僕らより先にゴールしていた。何の配慮だったのかとも思ったけど、僕は意外にも三着でのゴールで結果オーライということにした。これに出ると決まったとき“好きな人”とかでたらどうしようと思ったけど…まあ、そこまであからさまじゃないにしろ一緒に走ったのはどちらにしろ志乃で。それはそれで良かったじゃないかと言い聞かせて。
「もーりんちゃん!」
「えっ、わっ」
「なんですぐどっか行くの。俺りんといたいのに」
「ごめ、でも…」
三年生のターンは一番の盛り上がりだった。もう終わった僕には完全に他人事で、拗ねたように唇を尖らせる志乃に微笑んだ。
「ごめん、圧倒されちゃって」
「俺もうやだ。りんと二人きりが良い」
「おい、こんなとこでいちゃつくな」
「うるさいな〜てか樹なに持ってるの。気持ち悪い」
「うるせえな」
志乃は僕の手を握ったまま隣にを下ろし、競技が終わるまでそうしていた。さすがにこの整列している中までカメラや携帯を持って近づいてくる子はいなくて。
「次なんだっけ?」
「女子の玉入れ」
「やった!りん、ちょっと抜け出そ」
「そのあと綱引きだからダメだよ」
「う〜」
ハチマキを巻いたときの気合いはどこにいったのか、もう疲れきったように眉を下げた志乃はけれど真面目に参加を続けた。
そして午前の部最後はパン食い競争。僕が出る予定ではなかったんだけど、出るはずだった田中くんが二人三脚で捻挫して出れなくなってしまった。仕方ないから学級委員と指名をされ、まあ良いか、パン食べられるしと頷いた。
「じゃあ志乃、行ってくるね」
「終わったらすぐ戻ってきてね!」
「うん」
こんなに忙しい体育祭は人生で初めてだと、少しだけ嬉しく楽しく思いながら僕は言われた場所に整列した。
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