「音羽」

「あ、おはよう森嶋」

「おはよう。ハチマキ、似合ってるね」

「え?そうかな?」

あまり上手に巻けなくて、髪の毛が良くわからないことになっているけど、と笑えば「ほんとだ、寝癖みたい」と手を伸ばされた。

「ここ…」

「副会長!!りんに触んないで」

「わっ、志乃?ハチマキ出来た?」

静かに伸びてきた森嶋の手をぱちんと叩いた志乃は、僕の背後を固めて頭に顎をのせた。少し長めの金髪に、赤いハチマキとはなかなか目立つよなと数分前トイレの鏡の前で思った。それと同じことを思ったのか、森嶋も思わず「おお、」と漏らした。

「ごめん。でも志乃、僕が副会長なのは今日まで、だからね」

「副会長は副会長でしょ?」

「明日からは会長なんだ」

「……」

今日が前期の最後、というわけだ。明日からは後期。つまり生徒会役員も変わる。その節目であるという、そういう話なのに…志乃はよく分からないというように唸った。

「まあ、あんまり関係ない話かもしれないけど。副会長が呼びやすいなら、それで構わないし」

「…りん、副会長が会長になったら、何か変わるの?」

特には…と、首をかしげると、森嶋が少し残念そうに口元を緩めた。

「じゃあ、僕行くね。楽しもうね、二人とも」

「うん。森嶋も」

「ありがとう」

余裕のある背中が、なんだか会長ぽいなと思った。ジャージ姿なのにそれを感じさせるのが、さすがというかなんというか。まあ…逆にここまで体育着を着こなす志乃も、どうなんだと思うけど。

「行こう、りんちゃん」

「うん」

いやたぶん着こなしているというよりは、イケメンは何を着てもイケメン、ということだろう。お店で売れ残った服も、こういう人が着れば売れる、といった現象に近い気がする。ハチマキだって、こんなに気合い入れて頭に巻くの、応援団や生徒会くらいだ。腕に巻いたり首にかけているだけの生徒の方が圧倒的に多い。僕は頭に巻いてみたけれど、これはたぶん真面目な生徒、の典型な気がしないでもない。そう感じさせない志乃はい、本当に末恐ろしい。
「似合うー?」なんてにこにこしながら聞かれては素直に「似合うよ、格好良い」と言うしかない。そんなご機嫌な志乃と肩を並べてグラウンドへ出ると、すでに列が出来始めていた。

「りんちゃん寒くない?」

「平気。志乃こそ、寒くないの?」

「へーき!」

気合いなのかなんなのか、ジャージも羽織らないでしかもハーフパンツ姿の志乃はまだ暖かくなりきっていないこの時間の所為で寒そうに見える。一応団ごとにテントがあり場所は確保できているにしても、脱ぎ捨てておいたら紛失しそうでならば最初から着てこない、それもありだったかもしれない。





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