面談が終わると校内は体育祭ムード一色になった。

「えー、ということで、体育祭の練習を開始します」

各学年のクラスをランダムで三等分、という縦割りで一応団対抗の体育祭。練習は各クラスごとで行うけれど練習が必要なのは選抜リレーや二人三脚といったもので。僕の出る綱引きや借り物競争はほぼ練習の必要がない。それでも練習に、とあてられた合同練習の時間。みんな真面目に練習に参加している。

「樹くんも借り物競争出るんだ」

「じゃんけんで負けた」

「僕も。でも足遅いから、それくらいなら誤魔化せそうで良かった」

「貢献しようとしろよ」

運次第だねと笑えば、遠くでバトンの受け渡しの練習をしていた志乃がこちらを見た。樹くんと同じ団になれて嬉しいのは僕だけらしく、その視線が樹くんに刺さる。

「すげー顔してんな」

「あ、はは」

「遥ー真面目にやれー」

「っ!樹こそ!そこで何してるの」

キッ、と睨みをきかせた志乃に、彼の前にいた子がバトンを落とした。そりゃあ怖いよなと肩をすくめると、眉を下げたその子が落ちたバトンを拾い上げた。

「うるせーな、こっち見んな」

樹の馬鹿ーと、叫びながらも練習を投げ出さない志乃に感心したのは、たぶん僕だけじゃない。隣で樹くんがあいつも大人になったなあ、と呟いていたから。

「ていうか、練習出たのも初めてだと思うけど。去年はそれどころじゃなかったし」

「中学も出てなかったの?」

「あいつの暗黒時代だぞ。あんまり掘り出してやるなよ」

そうか、確かに不良が学校行事に積極的、というのは不似合いだ。
だけど、今の志乃に「似合わない」とは思わないなと思った背後で応援団の声が響く。応援合戦というものがあるものの、応援団以外の団員にはあまり関係ないもの。ただ、気合の入った声に、背筋が伸びた。

「てか、音羽もう大丈夫なのか」

「へ?なにが?」

「いろいろ。悩んでたじゃん」

「あー…ん、大丈夫、かな」

なぜか色々と事情を知っている樹くんに「でも中学の集まりは本当にあるらしくて、日程の連絡が宮木さんから来たよ」と伝えた。その電話の時に何に対してかは分からないけど謝られたことも伝えれば「ふーん、そうか」と曖昧な返事をされた。

「でも、行けないって言った」

あのちょっとした、けれど僕にとっては結構な事件のほとぼりは冷めていて。それでも不明な点は残されたまま。ただ志乃のあの幸せそうな顔を見ていれば、それもまあ良いかと思ってしまったのだ。

「そうか」

「ありがとう、気にかけてくれて」

「別に。ただ、なんか危なっかしいから。二人とも」

そうかな、と首を傾げたところで先生が集合をかけた。結局、僕らはその場にいただけで特に練習っぽいことをほとんどしないままだった。

「樹くん、お昼は?」

「あー、俺このまま帰る」

「帰れ帰れ〜」

「ガキかお前は」

昼休みのあとは、もういつも通りの授業だ。体育館とグラウンドを、それぞれ時間を決めて使えるというだけで、あとは通常通りの時間割り。着替えを済ませ席につくと、志乃が外で食べようと言いだした。珍しいことを言うなあと思いながらついていくと、旧校舎の生徒会室にたどり着いた。

「外って…」

「教室の外!」

「あ、そういう」

なんとなく久しぶりのそこは、埃っぽく、けれど窓を開ければ少しクリアになった。

「りん、樹とずっとなに話してたの?」

「んー…大したことは話してないよ」

「……」

「本当に。樹くんにも聞いてみなよ」

「やだ。樹なんて知らない」

「…そうだよね、ごめん、遥真面目に練習してたのに…僕もちゃんと頑張る」

「あ、いや、りんちゃん?そういうことじゃなくて…」

そうだ、どうせなら勝ちたい。

「僕応援するから、リレー頑張ってね」

「……りん」

「でも借り物競争はともかく綱引きって僕一人でどうにかなるのかな」そんな僕の呟きなど聞こえていなかったらしい志乃は、返事を返してはくれなかった。次の日の練習から、僕は宣言通り本番で走るトラック半周を、樹くんと練習した。借り物によって勝敗が決まるため走る早さは関係ない、なんて知らないふりで。リレー組に白い目で見られながら。志乃も真面目に練習していたし、キャーキャー騒がれても全く気にしていなかった。
ああ、高校生っぽいなと、勝手に満足しながら体育祭当日に向けて練習した。三日前に配られた赤のハチマキをお守りみたいにポケットに入れて。


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