「あ、見て、りんにもらった写真」

そんな恥ずかしい不安を抱いた僕に、志乃は思い出したように僕の背後の棚を指差した。

「ん?」

「飾ってあるよ」

「っ、ちょ、」

「これが一番好き」

振り向くと、志乃の中学の卒業式の写真の横に、僕とのツーショットが写真たてに入れられて置かれていた。真夏の海をバックに、間抜けな顔をした僕と相変わらずブレない男前の志乃が顔を寄せている写真だ。

「や、やだ、恥ずかしい」

「えーなんで、りんがくれたんだよ。俺嬉しくてばあちゃんたちにも見せびらかしちゃった。そしたら写真たてくれてね、せっかくだから飾っておきなよって」

確かにあげたのは僕だけど…家のプリンターにデータを飛ばして印刷した写真だ。自分の家で簡単にできるし、現像したついでにあげよう!なんて思える写真は初めてだったから…ああ、浮かれていたんだろう。こうやって見ると、自分が本当に情けなくなる。

「俺写真とかあんまり撮らないし、こうやって飾れるようなのもほとんどないから。毎日これ見ながら、りんにメールするんだよ」

蕩けてしまいそうな顔で、なんてことを言うんだ。

「宝物」

あまり物のない志乃の部屋で、あの学ランの写真は目を引いた。その横に、今は僕もいて。それが志乃にとってどんな意味があるのか、僕には計り知れないことなんだろう。

「他の写真も飾ろうと思ったけど、これからもっと増えるかもって思ったら、アルバムにした方がいいかなとも思って」

「えっ、いや、」

「だから汚れないようちゃんと封筒に入れて、大事にしまってあるんだあ」
計り知れないけれど、僕は素直に嬉しい。でも、僕とのツーショットばかりのアルバムは、どうかと思う。だめだ、恥ずかしい。僕が。まおの誕生日の写真も印刷したらあげようも思ってたけど…どうしよう、やめとこうかな…と、懸念するくらいに。

「そろそろまおちゃん迎えに行く?」

「、あ、ほんとだ」

自分の家にいるより早く過ぎてしまう時間、というのはこういうことか。

「俺も行く」

「え、いいよ、わざわざ」

「いいの。俺が行きたいの」

「でも」

「ほら、玄関まで手繋ご」

「……」

「恋人繋ぎがいい」

柔らかく触れた手が、一度握られ。それからゆるゆると指が絡められた。僕は慌てて鞄を掴んで、志乃と肩を並べた。そのまま階段を降り、靴を履き、出たくないねと言いながら解かれた手に、そうだね、とナチュラルに返してしまった。

「んも〜」

「っ、ちょ、」

「りんちゃん可愛すぎてつらい」

「えっ、なに、」

強引に僕の前髪を後ろへ押さえつけながら、志乃は顔を寄せてきた。そのままおでこにむにゅっと唇を押し当てて、でこちゅーというやつを実行して離れていった。

「おでこもかわいー」

「も、」

なんて恥ずかしいことを、と言葉にしたつもりだったけれど声はもごもごと口の中で消えてしまっていた。

「もういい、行こう」

「待って〜腕組んでもいーい?」

「わっ、そんなにくっついたら歩けないよ」

「歩ける〜」

やめろやめろと言いながらも、顔はにやけてしまう。それが楽しくて、もたもたともつれる足も気にならなかった。なんとか前に進める足で、まおを迎えに歩いた。


─ to be continue ..



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