志乃もこうだったのかな。気持ちの大きさ、なんて比べられないけれど、志乃はずっとこんなに僕を想っていてくれたんだろうか。触れたいと思うのを、我慢していたんだろうか。僕が考えるよりずっとずっと僕のことを考えていてくれていたんだろうか。そう思うと、嬉しくてたまらないのと、気づくのが遅れたことが悔しいのと、混ざってよく分からなくなってしまった。

「もう一回、してもい?」

「ん、」

「好き、大好き、りんちゃん」

あどけなく“来年は”と、未来の約束をくれるのも、前から変わらない。疑いもなく、隣にいるのだと。

「僕、も─」

『ピンポーン』

「……」

「音羽ー」

「、あ、樹…くん?」

「……なんで樹」

そういえばさっき着信があったんだ。何か用でも…

「はーい」

志乃の向こうにあるドアを開くと、「あれ、遥いたの」なんて樹くんが言うから、志乃の顔がこれでもかというくらいに歪んだ。

「なに、なんで樹がりんの家来るの?」

「帰りお前一人だったから声かけたのにこえー顔して無視するから、音羽となんかあったのかと思って」

「…それできたの?」

「音羽に電話したけどでなかった」

「あ、ごめん、かけ直そうと思ったんだけど」

「いや、なんかあったならまた落ち込んでるかもって気になっただけだから、別にいいけど」

「ありがとう、なにもないから大丈夫だよ」

「そうだよ、樹に心配されなくても平気だし」

「そうか、つーか遥もあんだけガン無視とかないから、まじで。あんだけ深刻な顔しやがって」

相変わらず志乃のこと大好きなんだなと、思わず口元が緩んだ。友達、としてというのは分かっているから変な勘繰りはしないし、僕のことまで心配してくれるんだから本当に優しい。

「あ、樹くん、今時間ある?」

「え?ああ、あるけど」

「遥がね、ケーキ、焼いてくれて」

「へぇ〜」

「一緒に食べない?」

「えっ!?なんで!今日はりんの誕生日だよ?なんで樹まで一緒にケーキ食べるの?」

「え?音羽今日誕生日なの?」

「そうだよ!だから帰って!」

「はあ?つーかお前今日面談じゃねえの?」

「四時からだもん」

「もうあとちょっとじゃねえか」

「ケーキ食べたらいくもん」

「あーはいはい。じゃあ俺も食べたらすぐ帰るわ」

「なんで食べるの。て言うかなんで面談って知ってるの」

「 お前が自分で嫌だなって愚痴ってたんだろ。それに、音羽今さらっと遥って呼んでたし、誕生日だし、おめでとうって気持ちを込めて」

「なにそれ!」

あ…

「遥の焼いたケーキってのも興味あるし」

今、僕、

「音羽、おめでと」

「えっ、あありが、とう…」

樹くんの前で遥、って呼んだ?
あ、だめだ、恥ずかしい。

「りん?どうかした?具合悪い?」

「ううん、平気…ごめん、二人とも、上がって。飲むものいれるね」

志乃から受け取った紙袋を抱え、二人をリビングに通してからも言い合う声が家に響いた。それがなんだか楽しくて、けれど恥ずかしさにまだ顔が熱い。こんな誕生日は本当に、初めてだ。




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