「生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう」

「ちょ…そんな、大袈裟な…」

「言わせてよ。ほんとに思ってるんだもん」

家族以外の誰かに、こんなに言われるなんて…泣きたいくらい嬉しいなと、思った瞬間涙が出た。嬉し泣き、とも違うのか、感動したのか、こぼれた涙は何故か止められなくて。

「うえっ、りん!ごめ、痛かった?苦しかった?」

「ちが…」

「えっ、え、あ…」

焦る志乃の胸に顔を押し付けて、僕は自然に涙が止まるまで抱きついていることにした。「嬉しいんだよ」と、背中に回した腕に力を込めるたび志乃も強く抱きしめ返してくれるのがひどく心地よくて。

「来年はプレゼント用意するね」

「また、ケーキ焼いておめでとうって言ってくれるだけで充分嬉しいよ」

「今度は、ご馳走も作る」

「うん、楽しみにしてるね」

「明日、学校終わったらうち来て欲しいな…一日遅れだけど、りんの好きなもの作る」

「いいの?」

「うん、何がいいかな」

抱き締める体が教えてくれる、志乃の体温。そういえばあの日から、キスもあまりしていない。志乃が、したくないからだろうか。樹くんの言ったように、失敗したと思っているから…そういうことをしたくないと感じているのだろうか。だから触れたい、と僕が強く思うようになったのかもしれない。

「一緒に買い物行って、ご飯作って…お魚の煮付けとか作りたいけど、時間かかるからそれはまた今度かなあ。あ、お好み焼きとかにして、マヨネーズで字書いてもいい?あと…」

「遥」

「ん?」

触れたい、か。

「りん?」

涙の止まった目でゆっくりあげて志乃を見ると、きょとんとした顔がそこにあった。それでも男前なのは言うまでもない。その顔へ近づくためには背伸びをしなきゃいけないのだけど、密着しすぎた今の状態では少し難しい。

「やだ、そんな見られたら、俺」

「…ん、いいよ」

「えっ!?」

「えっ?」

「あ、いや…え?」

「キス、」

「あ、う、うん、いいの?」

「だめなの?」

「や、だって…なんか、俺…この前のことも、あれだし…なんかりんちゃん、男前…」

でもさすがに「して、遥から」と、そう言う勇気もなくて、僕は少しだけ目を伏せた。今の反応で、自分の予想が大方当たっているっぽいなと思って。だからこそ言いたかったのだけど、今は目を伏せるのが僕の精一杯。

「はるか」

「、」

心臓だって、今にも壊れそうで。
僅かに離れた体、ふっと翳った気配に薄く目を開けると泣きそうに、けれどまっすぐに僕を見る志乃がいて。あ、だめだ、と。僕は手を志乃の後頭部に添えて、少しだけ力を込めた。

「っ、り─」

震えた唇が柔らかく触れ、志乃の言葉が僕の体に吸い込まれたような気がした。

「すごい、今…幸せ」

「りんずるい。俺なんか、もっと幸せだもん」

「僕の方が幸せだよ、きっと」

「ううん、俺の方が」

なんて恥ずかしい言い合いなんだ。頭ではそう思っていても、内側から溢れてくる感情が、そのままぼろぼろと口から出ていってしまう。



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