「ハッピーバースデーまお」

まおがひとつ、年をとった。

「すごーい!すごいすごい!!りんちゃんが作ったの?」

三者面談が始まって、午前で授業が終わる。おかげで準備が出来たのだけれど、残念ながら母さんは仕事で帰りはいつも通り遅くなりそうとのことだった。

「うん、まおが好きなグラタンに、オニオンスープでしょ、それから」

「かぼちゃのサラダと、あ!たまごのパイ!」

「今日はほうれん草とベーコンと、きのこも入れたよ」

美味しそう美味しそうと、何度もジャンプしながら喜ぶまおに、もう少し準備するからリビングで待っててと言うと、隣にいた志乃が「絵本読んであげる」とキッチンから連れ出してくれた。

「ありがとう」

「んーん、俺も楽しみにしてるね」

いつもは自宅で夕食をとるようにしている志乃が、今日は一緒にまおの誕生日をお祝いしてくれる。だから去年より少しだけ賑やかな誕生日パーティーで、僕も気合いをいれてたくさん作りすぎてしまった。

「何か手伝うことあったら言ってね」

いつもと変わらない。それでも少し、確実に距離が近くなった僕らの関係を、けれど他人事みたいに思っていた。ただじわりじわりとわいてくるのは、恥ずかしさだけじゃない。“触れたい”と、自分も思っているのだ。

「あ、いい感じ」

なんて、まだそれは口にはできないけれど。
オーブンの中で綺麗に焼けたチーズケーキを取りだし、クッキングシートを切り抜いて作った「happybirthday MAO」の文字を粉砂糖で型どる。

「いい匂いするね!」

「楽しみだね〜」

「もう少しだから、待ってて」

きちんと盛り付け、用意して隠しておいたプレゼントを食器棚の一番上から取り出した。本当は欲しがるものをそのままあげたいけれど、限界というものがあって。それでもなんとか用意したのは欲しがっていたキャラクターのぬいぐるみと、絵本と、母さんが選んだ可愛らしいワンピース。
それを背中に隠して、「まお」と呼べば。

「できた!?」

「うん、おいで」

「きゃー」

満面の笑みで駆け寄ってきたまおははるちゃんも早くと急かし、キラキラした目で僕を見つめた。

「お誕生日おめでとう、まお」

「ありがとう!りんちゃん!」

「はい、プレゼント」

「わあ!開けていーい?」

「どうぞ」

きゃっきゃと嬉しそうな声で包み紙を開け、一つ一つに感動の声をあげるまおが可愛くて仕方ない。ああもう、ほんと、天使。

「りんちゃんありがとお!!」

「どういたしまして。さ、ご飯食べよう」

「うん!」

あとで、ワンピース着た写真母さんに送ってあげよう。笑顔で食べる写真も。ケーキとのツーショットも。

「りんちゃん全部おいしい」

「本当?良かった」

「ね、おいしいねはるちゃん」

「うん、美味しいね。ありがとうね、りん。俺までごちそうになっちゃって」

「こちらこそありがとう。志乃がいてくれて僕も嬉しいよ」

携帯で納める写真に、志乃が写るのも単純に嬉しくて。去年までももちろん楽しくて幸せだったけど、また少し違うこの気持ちが嬉しくもある。

「ほら、まお、ほっぺについてる」

「んぅー」

「ケーキもあるからね」

「りんちゃんのチーズケーキ世界一好き!」

「ありがとう」

小さな頭を撫でてから、僕も誕生日のご馳走を口に含んだ。明日は三者面談だ。少し憂鬱だけど大事なこと。今これだけ幸せだと、これを糧に頑張れる気がする。来年の今日まで余裕かもしれない。
そんなことを考えながら三人でご飯とケーキを食べ終えた。志乃は散々まおのプレゼント自慢を聞かせられていけれど、しばらくしてから慌てて帰ると言い出した。長居させてしまってごめんと言うと、なにか言いたげに見つめられた。けれどそれは僕に問われることはなく、志乃はそのまま帰っていってしまった。

「りんちゃん抱っこしてー」

「どうしたの」

「えへへー」

「甘えん坊だな〜」

目一杯手を広げる可愛い可愛い妹を抱き上げると、保育園で貰ったと言う誕生日メダルを僕の首にかけてくれた。

「誕生日はまおでしょ」

「うん、でも、りんちゃんにあげる」

「いいの?」

「うん!まおからのプレゼント!」

黄色く輝く円形のメダルには日付と名前がしっかり書き込まれている。昨日保育園で今月のお誕生日会があったんだと言って、僕に自慢していたメダルだ。もらってしまっていいのだろうか…というか「あげる」という感覚がどういうものかわらないけれど、僕は「ありがとう」と素直に受け取ることにした。同時に、先生ってこういうのみんなの分手作りするんだなあと、改めて思った。大変だし手間も時間もかかるけど、こんなに喜んでもらえたら嬉しいんだろうな。
メダルを受け取った僕に抱き上げられた小さな温もりが、きゅっと首にしがみつく。

「どうしたの。今日は甘えん坊だね」

「そんなことないもん」

「眠い?」

「んーん」

はしゃぎ疲れてしまったのだろうかと思いながら、落とさないようしっかりと抱き直した。

「りんちゃん」

「ん?」

「つぎも、一緒?」

「次?あ、来年?どうかな、志乃がなにも予定なかったらまた来てくれるかもしれないね」

「ちがう」

「え?」

「りんちゃん」

どういう意味だろう。来年、僕がお祝いしてくれるのかということか。するに決まってるけれど、どうしてそんなこと…

「まお?」

結局、まおが言いたかったことはわからないまま。けれどなにか理由がなければそんなことは聞かないだろうに。分からないまま僕は面談を迎え、ああもしかして僕と母さんが進路の話をしているのを聞いていたのかも、と気づいた。もちろん意味なんて分からないだろうし理解もできない。それでもいつもとちがう雰囲気を感じ取り、変な不安を抱いた、というのは充分にあり得る。敏感な年頃なのかは僕にも分からないけれど、まおはたぶん、結構敏感だ。



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