いいとこ、触りあいっこ、だろう。
二人の顔と雰囲気で…主に遥の…何となくことを察した樹は、緩む頬をそのままに中庭から教室へ向かった。けれど校舎に入ってすぐ、中庭を見つめる副会長を見つけて足を止めた。

「……」

じっと、眼鏡の奥にある目が見つめるのは自分がさっきまでいた場所。そこにはまだ遥と音羽の姿があった。その目をよく見ることはできないが、樹の足は副会長へと一歩近づいていた。

「なあ、」

ゆっくり、森嶋の視線が樹へと流れる。

「ああ、志乃の。大橋くん、だよね」

「俺のこと知ってんの」

「もちろん」

いい意味ではないけれど、と続く言葉を飲み込んだ森嶋は分厚いレンズの向こうで目を細めた。

「ふーん」

「僕に、何か用だった?」

「いや、別に」

「そう」

するり、離れていった視線は、また中庭へ向けられた。つられて樹も遥たちの方を見た。

「てっきり、音羽のことで何か言われると思ったんだけど」

「……別に、俺には関係ないけど」

「でも僕のこと、よく思ってないんでしょ?」

「は?」

再び絡まった視線に、樹は一瞬息をのんだ。じっと射抜くような眼差し。音羽と話すときとは違う目だ。

「今声をかけた顔、すごく怖かった」

「目付きが悪いのは、元々だけど」

「それは関係ないよ。不良、でも根が真面目な人って分かっちゃうでしょ?染まってないっていうか。君はそんな感じだから、僕のことをよく思ってないから自然と目付きが鋭くなってるんだよ」

何を知っててそんなことを言うのか。

「なんだそれって顔してるね。…見れば分かるよ。僕、人をみる目、ある方だからね」

「自分で言うのかよ」

「はは、そうだね、言い過ぎかも。でも、当たってると思うんだけど」

「……」

「まあ、仕方ないよね。僕も人のこと言えないし」

「どういう意味」

「志乃のこと。僕は好きになれないなあって」

「それは遥も同じだろ。たぶん」

「志乃は分かりやすいもんね。僕のこと嫌ってるのまるわかりだし。それも仕方ないってわかってるから構わないんだけど」

「…つーか、あんた志乃と接点ないのによく見てんだな」

「接点、ね。確かに直接的にはないけど、僕はすごく彼が気にくわないよ」

「…音羽のことかよ」

「さあ、どうだろうね。こんな話自体君には興味ないと思うけど」

「確かにどうでもいいけど、あいつらのこと悪いように考えてほしくはねえな。あんたの入る隙はないし、牽制もしすぎると遥のガードが固くなるだけだぞ」

「あはは、いろいろバレてるんだ」

「そこまでじゃないけど。それに、音羽はあんたのこと純粋に好きだと思うし。あんまり下手なことは─」

「分かってるよ。でも、面白くないのは仕方ないと思わない?去年は僕がいた場所に志乃がいる、僕よりずっと音羽の傍に。僕と志乃の何がどう違って、音羽は志乃を選んだのかな。僕だったら音羽にあんな顔はさせないのに」

「あんな顔?」

「傷ついた顔。志乃から話はだいたい聞いてるんでしょう?」

「…あー」

「まあとにかく、僕も彼女も志乃と同じだよ。純粋に音羽のことが好きで、だけど音羽が自分を見てくれていないと気に入らない。無性に手を出したくなる。それだけのことだよ」

森嶋はベンチから腰をあげた二人から目をそらし、樹に背を向けた。スッとのびた背筋がやたらと真面目くさく、そしてどこか寂しげだった。

「じゃあ、僕は戻るね」

こんなにあからさまなのに気付かないのだから、音羽も相当なものだと思ったことは胸に押し込んで、樹も自分の教室へと戻った。



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