「なんでそうなるの」

「だって、宮木さん…」

「二人が仲良くしてるの見てショックだったのは本当だけど、それは、宮木さんが遥のことを好きなんだと思って…だったら僕、勝ち目がないというか…直視できなくて」

「宮木さんが俺のこと好きなんてあり得ない」

「どうして?わざわざ学校来てたんだよ?」

「それはりんに会いに来てたんでしょ」

「僕だけに会うためにわざわざ来ないよ。それに森嶋も…」

「副会長?」

「あ、えっと…森嶋が遥と偶然学校で会って、話をしたって聞いて。そのとき森嶋が宮木さんのこと出したから、てっきり…」

例え本当に僕に用事があったとしても、別にそれは電話でも済むことだ。学校まで足を運べばこの男前に会える。それを期待し始めたら、僕は口実でしかないし、実際そうだったんじゃないだろうかと思ったから逃げたんだ。

「も〜りんちゃんほんと鈍感ちん」

「鈍感なのは遥のほ─」

「心配したんだからね。りんにふられたらどうしようって、不安でたまんなかった」

志乃の頭に乗っていたタオルが落ち、僅かに水分を含んでうねった金髪が揺れた。

「電話、したけど繋がらなかった」

「連絡とるのも怖かった」

「なん、で」

そこまで怖がりなの。
最初からそうだったけど、志乃は僕に嫌われることを、恐れすぎだ。トラウマ並に。否、本当にトラウマなのかもしれない。

「でも、もう決めた」

大きな手に頬を包み込まれ、絡んだ視線に体が熱を帯びた。

「やっと捕まえたんだもん、りんが逃げても諦めない」

ほんの少し前まで情けない顔をしていたのに。眉を下げて、口角も下げて、唇を噛んで声を震わせていたのに。急に真剣な目をして、しっかりとした声を出して、掴まれた頬が熱くてたまらなくなった。

「でも、教えて。いつ副会長と会ったの?二人っきりで会ったの?他になに話したの、何にもされなかった?」

「あ、昨日、図書館で。まおと行ったら偶然。何かされるって、森嶋がなにするの」

コロコロ変わる表情に、いつもの志乃だと安心しつつ、頬にある志乃の手に自分の手を重ねた。

「りんちゃん、ほんとに分かってないの?」

「なにを?」

「ほんとに鈍感ちん…」

「その鈍感ちんってなに?」

盛大にため息をつかれ、こつんと額と額がぶつかった。

「もういいや。俺がりんのこと好きなのは変わんないし」

僕が聞きたいことはまだ他にもあったのに、絡まる吐息にそれは口に出せなかった。一体どこをどう勘違いしたのか。なんだかとんでもないことを考えていたような気がしたのだけれど。

「りん、好き」

「……うん」

「世界一好き」

「うん、」

「好き」

もう分かったから、とりあえずあがりなよ、そう言っても顔は離れなくて。それでもなんとか志乃を引きずってリビングへ入った。洗濯はあとで畳もう。

「お昼は?食べた?さっきうどんしたんだけど汁余っちゃったから食べない?うどんゆでるだけだし、そんなに時間か─」

「りん」

「、ん?」

どさりと、今度はかごが見事に倒れた。
足元に散らばった服やタオルは見えないふりで、志乃が後ろから僕を抱き締めた。驚きと、それから緊張で肩が揺れる。それを宥めるように、大きな手がゆっくりと僕の体を動かした。

「りんは?」

ゆっくり、顔が近づいて。

「へ、あ…」

答える前に唇が重なった。けれどそのまま「好きだよ」と呟いたら、くぐもった声が響いてくすぐったくて笑ってしまった。志乃もくすぐったかったのか、ふ、と息を漏らしたのが分かった。

「もう一回言って」

「……好き、遥が」

「りんちゃん、」

昼間から、何してるんだろう。
啄むだけのキスが、だんだん熱を帯びてきて。気づけば力が抜けて、口が開いてしまって、舌と舌が絡まって。志乃に支えられていなければ、しがみついていなければ、膝をついてしまいそうなくらいくらくらする。


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