「おかけになった番号は…」
いつもの土曜日。少し天気の悪い、けれど出歩くには困らない程度の、そんな天気。いつもの時間にやって来る金髪はいまだ現れず、お昼に一度だけかけた電話も繋がらなかった。昨日から志乃に会っていないまおも不思議そうに、けれど純粋にどうしたんだろうねと気にしている。
志乃がいるからといって特別何かをするわけではないけれど。それでも、志乃のいない休日をどう過ごしていいのか、曖昧になってしまっている。久しぶりに図書館にでもいこうかと思いついたのは、昨日森嶋と話したからかもしれない。
「りんちゃん、何冊までー?」
「じゃあ、三冊」
何冊でもいいのだけれど、いつもだいたいそのくらいにしている。
読めないまま返却、という行為が僕としてはあまり好きではないし、いくつでもいいよと言われた子供の遠慮のなさはすごいから。通い慣れた市民図書館は天気の所為もあってか、いつもより少しだけ空気が悪いような気がした。湿気と、それから高い人口密度で。
「りんちゃんりんちゃん、これとこれ、どっちがいいかなあ」
「どっちがいいかな」
「ん〜」
志乃が居ないことを、あまり口にしてほしくない今は、 まおのなんでもないつぶやきがありがたかった。これだけ人がいるのに、志乃のことばかり考えてしまう自分も少しは払拭してくれないかな、と。
「まお、僕あっちの棚見てくるけど、大丈夫?」
「大丈夫!」
と言っても、絵本のスペースは本棚がかなり低く、一列奥棚に移動してもまおの姿は見える。
僕はゆっくりと足を進ませ、絵本のコーナーが良く見える位置に設置されたソファーに腰をおろそうと、空いているところを探した。鳴ることのない携帯をポケットの中で強く握りながら。その時、見慣れた眼鏡と目が合い、「おお、」と反射的に声が漏れた。
「森嶋」
「はは、昨日の今日で会うとか、なんか恥ずかしいね」
学校にでも行ってきたのか、森嶋は制服を身に纏っていた。
「あは、僕も今、ちょっと思った」
あまり広々と空いているわけではないスペース、僕が座れるようつめてくれた森嶋のおかげですんなりと腰をおろすことができた。
「二人?」
「え?あ、うん。妹と」
ちらりとまおのいる方へ視線を向ければ、森嶋もつられてそちらへと視線を流した。それから「おっきくなったね」と微笑んで、一年で大きくなるんだねと付け加えた。
「本当、毎日成長してるよ。森嶋は、学校?」
「うん、少し仕事残してたから」
「そう、」
「…あ、そういえば…見間違い、かもしれないんだけど」
「うん?」
「志乃、学校来てたかも」
「え…?」
まさかここで森嶋の口からその名前が出てくるとは思ってなくて、目を見開いたまま勢いよく森嶋を見てしまった。
「顔は良く見えなかったんだけど、たぶんあの金髪は他にはいないと思うし…職員室から出てくとこでそのまますぐ下駄箱行って見えなくなったからはっきりとは分からなかったけど」
「学校…」
どうして土曜日に、学校?
「ほら、一応部活や補修で出てきてる生徒とかいるし、学校は空いてるからいてもおかしくはないよ」
「そう、っか…」
「提出物の忘れ物、とか」
「…うん」
たぶん、それは、ない。
保護者のサインがいる書類とかなら話は別だけど、そうでない宿題等で未提出のものがあれば志乃は僕に相談してくるからだ。一人で、なんて…
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