志乃のお父さんに遭遇してから数日、結局それ以来会うことはなかった。恐らくこれからしばらく機会もないのだろう。既に日本に居ないかもしれない…となると、志乃親子の問題も、しばらく停戦状態ということで。これはもう仕方がないことなので、僕は残り三日となってしまった夏休みと向き合うことにした。
課題は終わり、提出物はすべて鞄へ入れ、志乃も同じように準備させた。仕方がないといいつつ、内心今度会ったら…なんて考えているし、でもやっぱり自分のしたことを思い出して恥ずかしくなる。後悔しているわけではないけれど、「りんちゃんやっぱり男前だね」なんて笑顔で言われて、もう訂正はできない。

「はい、出来たよ」

「わーい、りんちゃんありがとー!はるちゃーん、みてみてー!」

もちろん訂正するつもりも、したいわけでもないからいいのだけど。

「まおちゃん可愛いー」

「えへー」

「……まお、髪飾りつけるからおいで」

一旦、それはおいといて。

「まおピンクのお花がいーなー」

週末の花火大会がやって来た。
花火が上がるのはもちろん夜。あんまり早くから行っても疲れてしまうだろうからと待たせたものの、朝からそわそわしていたまおと志乃がついにもう限界だと騒ぎ始めたので、少し早いけどまおに浴衣を着せた。

「これでいい?」

「うん!」

「りんってほんと、器用だよね」

「そうかな」

「俺髪の毛結ったりとか、出来ないよ?」

そんな機会もそうそうないかと納得しつつ、「まおちゃんの髪の毛さらさらだし、余計難しそう」と付け加えられて思わず手が止まった。くそう、このさらさらの髪を志乃にも触らせてるなんて…と。

「痛くない?」

「痛くないよう」

ポニーテールにした髪を指で梳きながら、随分伸びたなと思った。そういえば美容院なんて全然行かせてあげれてないし、たまに前髪を切るついでに毛先をちょんちょん、と切るくらいしかしていない。こんなに小さくても女の子だ、可哀想なことをしているのかもしれない。

「りんちゃんゆかた着ないのー?」

「え?うーん、僕はいいよ」

去年まおに浴衣を着せたついでに、クローゼットの奥に眠っていた父さんの浴衣を着てみたけれど、修正がきかないくらいサイズが違ったから諦めた。一年でそれがぴったりになっていることはないだろう。記憶の中の父さんはそんなに大柄じゃないのに、やっぱり大人の男の人、というのは違うらしい。僕もそうなれるのかなあと不安になりつつ、小さな巾着をまおに持たせた。

「はるちゃんもー?」

「持ってきてないんだあ」

「ざんねん」

「来年は持ってくるね。りんちゃんに着せてもらうね」

「わーい、おそろい!」

来年、とさらりと言われて胸が高鳴ったのは僕だけだろう。あんまり自然に言うもんだから、つっこむのも恥ずかしい。

「戸締まりしてくるから、ちょっと待ってて」

「はーい」

僕は逃げるように二階へあがり、二部屋しかないけれどしっかりと窓を閉めて鍵をして。ついでに洗濯物も取り込んだ。その途中、珍しく家の電話が鳴り階段の下で遥が「りんー、出ようかー?」と叫ぶ。リビングにしかないそれを、僕の返事を待たないで志乃がとる。セールスか、母さんくらいしかかけてこないし、まあいいかと僕はゆっくり階段を降りた。

「はい、もしもし音羽です」

そんな、流暢な志乃の声に一段踏み外してしまったけれど。おかげで抱えていた洗濯物がぼろりと落ちた。


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