「樹!!近い。離れてよ」

「近くねえって」

「近い近い近い!」

まおの靴を見事救出し、その小さな足に戻してからこっちに戻ってきた志乃は僕と樹くんの間に腰を下ろした。樹くんは呆れたように笑って立ち上がり、そのまま「そろそろ帰るわ」と背を向けた。

「あ、樹くん」

「んー?」

「っと…」

「……いつでも相談してこればいいって」

「あ、ありがとう!」

「おー、じゃあな」

「うん、またね」

特にこれと言って何かあるわけではないけれど。僕らの関係を知っているのは彼だけ。なんだかんだと、樹くんは僕のことも気にかけてくれる。普段僕は気にかけられるタイプではないから、それが少しだけ照れ臭くて、そして嬉しいんだと思う。それを、志乃には言わないでおくけれど、なにも言わなかったら言わなかったで拗ねてしまった。まおが遊び疲れて帰ろうと言い出すまで、志乃は情けなく項垂れて僕の手をとって指を弄んでいた。

「まおちゃん、ぐっすりだね」

「うん、起きたら水分補給させないと」

「交代する?」

「ううん、平気だよ」

公園を出てすぐ、まおはうとうとしながら歩いていて。見てられなくてらおんぶしてあげたら、ものの数秒で眠ってしまった。背中はその体温でひどく熱かった。

「……ね、りん」

「ん?」

「明後日、何時に帰ってくるの?」

「明後日…時間は分からないけど…夜になると思う」

「…そっかあ、寂しいなあ」

寂しいね、寂しいよ、僕も。
付き合うってことはたぶん、そういうこともさらりと言っていいんだろう。まだ恥ずかしくて、言えないけれど。

「明後日、の次の日、会いに行くね」

「うん」

「明日、朝早いの?」

「ん〜いつもより少し」

「じゃあ、俺このまま帰るね」

僕の家につくなり、志乃はそう言って眉を下げたまま微笑んだ。わがままを言われてもどうにもできないことだけど、さっきまであんなに拗ねてたのに…

「遥」

一度家へ入り、リビングに置き去りにしていた課題の入った鞄を手にした志乃は、きょとん、と僕を見た。ソファーに下ろしたまおは、まだ起きそうにない。

「また、し、明々後日」

「…うん。ね、りん、ちょっと」

「なに?」

そっと僕の手をとってリビングを出ると、少し強引に引き寄せられて胸に飛び込んでしまった。

「充電〜」

ぎゅー、なんて声に出すことじゃないのに、志乃はふにゃりと笑ってそう言った。これをかわいいと思ってしまう僕は、大人しく抱き締められていて。「りんちゃん充電〜」と絞め殺されるんじゃないかというほど力を込められても抵抗しないで抱き締め返した。

「もー、やだなあ〜…」

「なに?」

「俺がいない間に、りんになにかあったら」

「ふふ、何もないよ」

「それだけじゃないよ、誰かにとられたらとか、会えない間に俺のことどうでもよくなっちゃってたらとか、あと…」

「大丈夫だよ」

「…ほんとに?」

「本当に」

「分かった」

またそれから少し抱き締めて、志乃は帰っていった。
玄関を出て、その背中が見えなくなるまで見送る自分と何度も振り返って手を振る志乃に、やっぱり男子高校生らしくはないなと、恥ずかしいなと、改めて思った。

「……二日、ね」

二日、あの顔を見ない。

「…」

そりゃあ、寂しい、僕だって。

「…まお、そろそろ起きないと、夜寝れなくなるよ」

「んむ〜…」

その夜、お泊まりの準備をしながら志乃とメールのやり取りをしているうちに、やっぱり僕も相当寂しいと思っているんだなと実感して恥ずかしくなった。志乃がはっきりと言葉にするから、なんだかこっちまで余計に、というのもあるけど。

「はるちゃんと会えないの、寂しいね」

「そうだね、寂しいね」

なんて、やましい気持ちを隠して寂しいと言えることに感謝している時点で、僕は自分の気持ちを結構自覚しているんだと思う。

「ほら、準備終わったから、もう寝よう。明日は早起きだよ」

「ままはー?」

「もう少ししたら帰ってくるよ」

「んー」

「ほら、寝よう」

「うん、おやすみ、りんちゃん」

「おやすみ、まお」



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